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軍事機関1 マリア先生 
 軍事機関(T)/U/V/W


 ここはティレニア軍事機関。まだコウが軍人候補生として修行していたあの頃…。

「今日は何習おうかな」

 珍しく、と言うよりあり得ない程マイペースなコウは、まだ自分がどんな戦士を目指すのかはっきりと決まっていなかった。機関の廊下をぐるりと歩き回っていると、ある教室から知った声が聞こえてきた。

「この声は……」

 確かめるため、後ろドアを少し開けて中を覗く。教室には女生徒がぎっしり詰まっていて、前で元気に声を張り上げているのはやはり知った顔。彼女は桃色髪をゆさゆささせながら板書していた。軍事機関教官マリア=モール。あの小さな体のどこからあんなパワフルさが出ているのか、未だに謎な人だ。

「はいっ! それではこれから実践に移りますっ。祈りとは心を通わす神聖なもの、誰かを思ったり優しい気持ちになったり……とても素敵なものなのですよ」

 マリア先生の話し方はあまり頭が良さそうじゃない。けれど生徒達は仕切りに頷いて、意欲的な子達ばかりだった。

「祈りか……柄じゃないけど、やってみようかな」

 そうして教室の角で隠れて授業を聞くコウ。正しくは廊下と後扉の間から、だが。

「まずは手を組んで、そう、手前にねー。軽く握ったら目を閉じて……ゆっくり自分の心と向き合うの」

 マリアの声に合わせて、女生徒全員が祈りを始めた。コウも暫くは目を詰むっていたが、思考が乱れて上手くいかない。皆はどうしてるんだろう……と気になり、そっと目を開けてみた。

「(皆真面目にやってる……)」

 真剣に何かを願う人もいれば、迷いに迷って救いを求める表情をした人もいた。それぞれに宿る祈りの力は別なのだと、これらを見れば明らかだった。

 さすが教官。普段はお惚けキャラだが、先生らしい事も出来るんだな、と感心し、ちらりと前を見た。マリアさんは何を祈って……祈っ……。

「――――ぐぅ。」

 ね、寝てる――!!?

「(どっどうしようっ!? 起こした方がいいのかなっ)」

 もう対処の仕様が分かりません。あんた絶好の機会だと言わんばかりに寝ちゃうなよ、と突っ込みを入れたのは恐らく私だけだろう。

 数十分後。

 恐ろしく長くて大変暇な時間だった。マリアさんが突然「はい、終わりっ」と言ったので、生徒達も目を開ける。というか祈りは個人個人の事だから、はい終わり、で線切るものじゃないと思いますよ、私は。

「皆さん良く出来ました。それでは今日はこれで終わりです」

 一斉に教室は騒めき立ち、女の子達は楽しそうに会話をしている。中にはマリアさんの所へ行って、何か懸命に質問をする生徒もいた。教室の雰囲気は素敵だと思う。思うけど、きっと自分には耐えられない、そんな気がした……。

「シスター科、却下……っと」

 自作の学科表にバツを付け、また当てもなく教室巡りをするコウだった。





 [完]



 (C)りひと 2008-1-12


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