古の恋人《07》
「さよなら」だと?
自分から巻き込んでおいて。
自分から誘っておいて。
勝手に死ぬっていうのか?
「ふざけるな」
「うわぁっ! なんだ!?」
突然の強風に、周囲の人間は皆目を閉じた。轟々と吹き荒れる風は止むことなく、木々を削ってしまう程に吹き続けた。
その為沼の表面も削られ、段々とルシアの周囲の泥が吹き飛んでいく。それを目では見れないものの、ルシアは感じていた。
やがて風は収まり、皆は恐る恐る目を開けた。彼らの目に映ったもの。それは、
沼に立つ、金の少女。
「ルーンなのか?」
すっかり泥は吹き飛んでしまい、沼は只の盆地と化した。その中で、驚きの声を上げるルシア。
彼の目には愛しい女が映っていた。
だが、確実に今までとは違う姿だった。
ルーンの背中には、いつか見た大きな羽が生えていたのだ。
「ルーン、もしかして」
ルシアは直感的に思いついた。
目の前の人ならざる少女、巨大な羽、突然の強風。それらに関係するものは。
『私は、精霊だ』
「ルーン」
言ってしまった。自分の正体を。
いずれは分かる事だとしても、隠せるなら隠しておきたかったのに。
「おお、これは正に……神の業じゃ」
「本当に精霊なの? あの子が……」
周囲の村人は口々に言い始めた。それに少し戸惑いながらも、ルーンはルシアの腕を掴む。
『いつまでそこに座っている気だ』
「あ、いや」
ルシアもどうしていいか分からず、とりあえずはルーンの腕に身を任せて起き上がった。
『全く無茶なさるわぁ、今回の精霊王さまは』
『本当ねぇ、困っちゃうわ』
「え? ルーン何か言った?」
『私ではない』
ルーンはすっと上空を指す。全員が空に集中した。
「何あれ。妖精?」
『あ、ちょっとちょっと、違うわよ。私達はシルフっ』
『人間ったら浅知恵で嫌ぁねぇ』
シルフ共は呆れた声を出しながら、ルーンの元へ集まった。
ルーンは毅然とルシアの前に立ち、真っ直ぐ彼を見つめた。
その心地いい視線に心を高鳴らせながら、ルシアも優しくルーンを見つめる。
「どうしてだろう。シルフさん達が見えるんだ」
『それはお前が精霊の王だからだ』
その答えに対し、ルシアは驚きもしなかった。まるで分かっていて聞いたかのように。
「そう。私が」
『驚かないのか?』
「いや、まぁ。いきなり王だと言われてもね、正直よくわからないよ」
『それはそうだが』
ルーンは忘れていた。
ルシアが非常に鈍感で変わり者であったことを。
『ルシア、お前は我ら精霊の王だ。今までは目立った効力も無かったが、徐々に覚醒されつつある。王としての力が完全に目覚めるのも時間の問題だ』
「私はどうすればいいのかな?」
『どうも……しなくていい。お前がお前でいてくれたら』
「そうか。それなら安心したよ」
ルシアは再び極上の笑顔を見せた。
それだけでルーンは昇ってしまいそうだった。
←前へ|次へ→
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!