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古の恋人《03》


 次の日は見事な快晴だった。
 昨日の大雨が嘘のようだ。
 ルシアは今日もまた6キロ離れたトエ婆さんの畑仕事を手伝いに出かけた。

 しかし、今日は昨日とは違う。何が違うのか?

「ねえルーンさん、そんな隠れてないで出ておいでよ」

『……』

「昨夜もずっとそうやって私を見張っていたけれど、別に何もしないよ?」

『信用できん』

「困ったなあ」

 ルシアは本当は困ってなどいなかったが、そんな風な素振りを見せた。

 彼は昨晩ずっとルーンのガン見に耐えていた。
 別に恐かったわけじゃない。そんな事ある筈がない。
 何故なら、ルシアは気づいてしまったから。
 ルーンの凛とした瞳に、その美しい表情全てに惹かれていたと。

「ルーンさん、これから畑仕事をしに行くんだけど、君も一緒にどう?」

『何故私がそんな事をせねばならんのだ』

「だってトエ婆さんはあんなに腰が曲がっても弱音一つ吐かずに頑張ってるんだよ? 手伝ってあげようと思わないの?」

『――っ』

 いつものルーンなら即答で「思わない」と言っただろう。だが、何故かルシアを前にしては言えなかった。

「今日はよろしくね」

『ふん』

 ルーンは走ってルシアに追いつき、彼の2歩後ろを歩いた。
 隣に来ればいいのに、と思いながら、ルシアは密かに6キロの道のりを楽しんでいた。


 *****


「おや、今日は連れも一緒かい?」

「トエさんお早うございます。今日はルーンさんも手伝ってくれるそうですよ」

 勝手に話を進めていくルシアを睨みながら、ルーンは口を尖らせた。
 その様子を穏やかに見つめるトエ婆さんは、ルーンに仕事服を渡した。それは地味な象牙色の半袖長ズボンで、泥で汚れる為に生まれてきた様な衣服だった。

『こんなものを着るのか?』

「当たり前だろう。畑仕事をなめちゃあだめだよ」

 トエ婆さんはそう言うと、早速畑に入って収穫の続きをし始めた。
 ルシアも為れた様に仕事道具を取り、畑へ参戦する。
 畑仕事などやったこともないルーンは、一人おろおろとしていた。

「ルーンさん、こっちへおいで」

 長草の中からひょっこり顔を出したルシアが呼ぶ。
 仕方なくルーンは彼の元へ向かった。

 それから3時間くらいだろうか。
 正午の鐘が鳴り、トエ婆さんが昼食の準備をしてくれた。
 ご飯だよ、という呼びかけに元気よく返事をすると、ルシアはルーンを連れてトエ婆さんの家に向かった。

『何だこれは』

「何って、麦と芋煮に野草の漬物とそれから……」

『もういい』

 ルーンはルシアの長くなりそうな説明を拒否した。

「嫌いかい?」

 トエ婆さんが不安げに言うので、ルーンも困った様に顔をしかめる。

『嫌いなわけではない。食べた事がないだけだ』

「え!? 無いの!? それはすっごく損してるよルーンさん! これ滅茶苦茶美味しいんだからっ」

 ルシアが興奮気味に勧める。ルーンも逃げ場が無くなり、一つ口に入れてみた。

『……』

「ど、どう?」

『美味い』

 ルーンはぽつりと呟いた。
 ルシアはぱあっと明るい表情になり、最高の笑顔をルーンに向けた。

「今度作り方教えてあげるよ」

「だって。よかったね、ルーンさん」

 ルーンは小さく頷いた。

 何故か分からない。けれどどうしてか、ルシアの笑顔をもう一度見たいと思ってしまった。



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あきゅろす。
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