古の恋人《02》
雨宿りと言う暇な時間に耐えられなかったルシアは、森の中を歩き回っていた。うろうろと、当ても無く。
幾枚の葉に守られた森の地には、雨は殆ど届かなかった。空気は湿っていたが、風は心地よかった。
ルシアは何も考えずに、ただ風の集まる場所へ向かっていた。
ふと、風が止んだ。
ルシアは周囲を見渡すが、別段何もない。
しかしどこか先ほどとは違う空気を感じていた。
ルシアの前方の茂みが揺れた。彼の視線がそこに集中する。
「……誰?」
ルシアが問うと、茂みから金の羽が動いた。
鳥か? それにしても、大きい。
決して小鳥とは言えない大きな羽を見て、ルシアは次の行動に躊躇った。
しかし羽という事は相手は鳥で、地面にいるという事は怪我でもしているのかもしれない、と思った彼は、真っ直ぐ近づいた。
羽は僅かに揺れたが逃げはしなかった。
「こんな所で何を」
ルシアがそう言いながら茂みを覗いた。が、そこには金の羽などなかった。
「君は、誰?」
ルシアの目に映ったものは、金色の髪を持つ美しい女だった。しかし女は少女の面影もあった。
「こんな所で、どうしたの?」
女は無言だった。だがルシアはお構いなしに話かけた。
「君、この辺の村の子かな。もしかして君も雨宿り?」
『……』
「だよねぇ、私もびっくりしたよ。急に雨が降るからさ」
『……っていた』
「え?」
『雨が降る事など知っていた』
女はキッとルシアを睨んだ。
長い睫毛が目元に影を落とす。それが何故か魅力的に見えたルシアは、不思議な胸の高鳴りの正体をまだ知らずに居た。
「そうなんだ」
『雨は嫌いだ。だからここに来た』
「あ、じゃあやっぱり君も雨宿りなんだね」
ルシアは女の前にしゃがみこんだ。女は少し後ずさる。
「逃げないで、何もしないよ」
『言うと余計警戒するぞ』
「あ、それもそうか」
ルシアは素直に頷いた。その反応の速さに女も少したじろぐ。
「私はルシアというんだ。君の名前は?」
『……』
「うーん、じゃあ金髪だからキラキラさんで!」
『ルーンだ』
思わず名前を言ってしまい、女は不本意そうに顔を反らした。対するルシアは満面の笑顔だった。
「ルーンさんか、可愛い名前だね」
『煩い』
短く答える女の顔は、少し淡く染まっていた。
それがとても綺麗に見えたルシアは、じっと女の顔を見つめていた。
そう、この日がルーンの忘れられない人、最愛の彼、ルシア=ファーベルとの出会いだった。
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