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闇の輝星《14》

 リーチェル家の長バルトを筆頭に城主リセイを補佐し、不幸が続き荒れていたクロス城周辺は見違えるほど良くなっていった。

 よく晴れた朝、いつもの様にマリアとアモンは家を出て、クロス城へ向かう。すると必ず道の途中であの少年に会うのだ。

「よお、偶然だな」

 そう声をかけられ、アモンは親しげに笑顔を見せた。その相手とは、薄緑色の髪をした少し無愛想な少年。

「お早うアーク。タイミングばっちりだね」

「煩いな。マリア、どっちが早く着くか競争だぜ!」

「アークずるいわっ、自分は坂の上にいるのにー」

 勝負を投げかけるアークに、マリアは文句を言いながらも付いていく。そんな幼い二人を見守るアモンは、この日々の幸せを確かに感じていた。

 いつまでも続けば良いと、そう願っていた。


 *****


 クロス城の裏庭で、庭整理をするマリアとクリス、その周辺を走り回って遊ぶアーク、日陰で読書を楽しむアモンと、4人はいつも一緒だった。
 その内に仕事を終えたリセイが来て、難しい話から面白可笑しい話まで、アモンとリセイはよく語り合っていた。
 その様子を見詰めていたクリスが、今でもこの光景を思い出すという事を、恐らく誰も知らない。

 そして、今日も穏やかな風が吹く、平穏な一日だと、誰もがそう思って疑わなかった。

 だが、事は突然に起きた。

「リセイ様!!」

 親しい者以外は入る事を許していないこの裏庭に、兵士が慌てて乗り込んできた。アークやマリアは驚いて兄達の背に隠れるが、リセイはさして動揺も無く対応する。

「何があった」

「はっ! それが、つい先ほど東北の村が──」

 この時兵士が発した言葉は、アークの全てを奪った。

「辺境の地プラムが全焼し、生存者は一人もいません!」

 大陸の東北に位置する小さな村、プラム。そこの村主でもあったバクト家は、帝都に住まう貴族からは変わり者だと遠ざけられていた。
 だが、比較的村に近いクロス城主デスや鍛冶職人ルドは、そんな変わり者の彼を好ましく思っていた。

 小さいながらも栄えていた、辺境の村プラム。その村が小一時間で全焼とは、明らかに普通ではない。

「ど……どういう事だよぉ!!」

 アークは叫ぶしかなかった。困惑する彼をクリスが押さえ、アモンに視線を送る。
 アモンはゆっくり歩き出し、リセイと兵士の話を聞きに行った。

「原因は何だ?」

「それが──」

 ごちゃごちゃと話し声が聞こえてくる中、アークは目に涙を溜めて震えていた。
 生存者無しという事は、今この町にいる自分と鍛冶屋に来ている叔父以外は、全員死んでしまったという事だろう。
 そんな事、いきなり突きつけられても納得出来ないのは当たり前だった。


 *****


 プラム町が消滅したその日から、帝国の動きはより一層激しくなった。

 故郷を失くしたバクト家の生き残り、アークと彼の叔父は、一先ずクロス城に身を寄せていた。

 叔父は毎日何かに怯えていた。家長バルトや城主リセイは彼らを抑圧などしていなかったが、やはり他貴族がいくつも交わると、城内の空気も張り詰めていた。

 一室を借りた叔父は決して表に出る事無く、甥のアークと共に毎日を過ごした。
 運ばれてくる食事にも殆ど手をつけない。
 それも当然の事と言えば、そうだろう。
 彼らは一瞬にして家族や故郷を失くしたのだから。
 こればかりは他人にはどうする事も出来なくて、皆は敢えて彼らを放置していた。

 明りも付けていない真っ暗な部屋で、毎日の様にぶつぶつと呟く叔父は、アークに同じ事を繰り返し語りかけていた。

「あいつらの所為だ……あいつらの所為で」

「叔父さん、お腹すいた」

「あいつらの所為なんだ、あいつらの」

「ねぇ、外に出ようよ。お腹すいたよ」

「だ……駄目だ! あいつらの所為で村が焼かれたんだ! そんな悪魔の出した食事などに手をつけるな!」

 叔父の顔は今までに見た事もないくらい醜く歪んでいた。

「悪いのは、あいつらだ。東国を襲って奴らの反感を買ったあいつらなんだぁぁ!」

 叔父は日に日に弱り、狂っていった。

 それを毎日見続けていたアークもまた、何が正しかったのか、この世界がどうなっているのか、自分は誰なのか、それすらも分からなくなっていた。


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