闇の輝星《13》
「おい、そこにいるのは誰だ」
「? ああ、彼の事か。親の仕事の関係でちょっと世話してやってんだよ。おいで、アーク」
「……」
「おーい、アーク?」
アモンが何度呼んでも、少年は一行に出て来ない。痺れを切らしたクリスが行動に出る。
「んな所で人を凝視するのは失礼だぞ! いい加減出て来い!」
「ぅうわっ!」
クリスは少年の耳を無理やり引っ張る。倒れ込むように出てきた少年は、薄い緑の髪を持っていた。
「いてぇな! 何すんだよ!」
少年アークは果敢に立ち向かう。だが幼少期の年の差は顕著に出るもので、2歳年上のクリスに敵う筈も無かった。
「こそこそ隠れてるお前が悪いんだろう! 私はクリス=リーチェルだ。お前は?」
「ふん」
「おーまーえーのー名ーまー」
「うあぁぁ! 耳元で煩いんだよ! 俺はアーク! アーク=バクトだ!」
アークは咄嗟に耳を塞ぐ。対するクリスは満足そうに笑っていた。
「そうか、アーク。お前も暇なら遊びに来いよ」
「誰がお前の城なんかに」
「へぇ? 懲りてない?」
「っ! おいマリア! 遊びに行くぞ!」
また騒音を聞かされると思ったアークは、逃げる手段にマリアを使った。マリアは屈託の無い笑顔で返事をし、アークと二人で遊びに出かけた。
「ったく。でもまさか、あのバクト家がここに来てるとはな」
「はは、だろ? 親父の知り合いらしいけど、辺境の貴族バクト家って言えば、変わり者の頑固家族って有名だもんな」
「そりゃあんな糞ガキにもなる訳だ」
困ったように言うクリスは、それでも笑顔だった。親がどうであれ、あの少年は素直に育ったと、そう感じて嬉しく思っていた。
「クリス、もうリセイには会ったのか?」
「ああ、何度かな。だが随分仕事をさせられているみたいで、私でもなかなか会えん」
「そうか……」
やはり覇王の血を受け継ぐだけあり、リセイは誰からも期待されていた。
神軍の長は血族継承ではない。覇王の名を受け継いだ者が、次の神軍長になるのだ。
まだリセイは幼い為、名を受け継ぐ事は出来ないが、最早彼しかいなかった。
それは帝国司祭達も承知せざるを得ず、本来なら禁止されている親子間での継承を、今回特別に許したのだ。
何故神軍長の座を息子が受け継いではならないのか。それは貴族達が最も恐れている国内の反乱を防ぐ為だった。
帝国領土は非常に広く、帝都だけでは処理しきれない。その為各地にクロス城やエルメア城を配置しているのだが、それらは立派な自治区であり、その気になれば独立する事も出来るだろう。
それだけ洗練された城の主が、血族間で継承すれば、やがてその家系は絶大な権力を持つ様になる。
一軍を預かる彼らが大きな権力を持てば、反旗を翻される可能性も十分ある。
その事態を避ける為に、帝国司祭達は血族間での継承を禁止し、城を守る家も代替わりさせていた。
それが慣例なのだが、今回はそう上手くは行かず、著しい人材不足により城主を勤め上げる程の若手騎士がおらず、覇王デスの右腕と言われる者も戦死し、残りはリセイしかいなかった。
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