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闇の輝星《06》残酷な運命


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「ユエ様が亡くなられた、だと?」

 それはある日のこと。
 その日は朝から雨が酷く降り続き、小さな川はあちこちで氾濫を起こしていた。室内にいても雨音で会話が聞き取りにくい程だ。

 そんな日の、正午。
 父からアモンに伝えられた事、それは……神軍隊長デス=オルレアンの最愛の妻、ユエの死だった。

「ユエ様が死んだ……それも一年も前に!?」

 一年前というと、マリアが初めてリセイと会ったあの日も、ちょうどそれくらい前だった。
 アモンは戸惑いを隠せず、額に手を当ててうな垂れていた。

「お兄様? どうかなさったのですか?」

 ドアの向こうで聞いていたマリアが只ならぬ空気を感じ、おずおずと扉を開けた。
 アモンは言おうか言わまいか躊躇ったが、上手く思考が働かなかった。

「ユエ様が、どうとか……」

「マリアは知っているね、ユエ様を」

「ええ、デス様の奥方様ですが……ユエ様に何かあったのですか?」

 アモンは一呼吸置いて、重々しく答えた。

「ユエ様がご病気で亡くなられたそうだ。一年も前にね」

 子供だから真実を隠していた、という訳ではないだろう。
 きっと、世間の混乱を避けるため、彼女の死は公表されず、一部の人間のみ真実が知らされた。

 事情はわかる。
 今は東国と睨み合いの最中で、何か弱みを握られれば簡単に利用される。
 それがただの情報でも、民に与える影響は大きいのだ。

 それにユエは、非常に優れた司祭だった。そして他国から恐れられる存在でもあった。
 彼女は覇王の妻、闇の要、そして最上級魔法を使用できる数少ない魔導士だったのだから。

「では、今クロス城には」

 アモンはある人物を思い出し、父に問う。

「デス様は数ヶ月ほど前から帝国本城にいらっしゃる。その間リセイ様がクロス城の守護をしておられるそうだ」

「なっ! まだ7歳の子供に城主をやれと言うのか!?」

 アモンは声を荒げ怒りを露わにした。
 そんな馬鹿みたいな話があってたまるものか、と

「名目上はな。実際は周囲の司祭が取り仕切っているだろう」

「それでも! クロス城とその近辺の全責任を負わされたようなもんだ! なんて非情なっ!」

 そう、今正にリセイは、クロス城の主席に座り、数々の政を行っている。
 勿論司祭の助言もありはするが、皆自分達の保全ばかりを考えるだけで、戦を控え不安を抱える民達を顧みることはなかった。

 リセイも何とかしたい気持ちはあったが、まだ7つの子供だ。
 正確な判断もままならないし、第一周囲が子供の意見など認めない。
 今のクロス城は、リセイにとって地獄そのものだろう。

「父さん。俺、クロス城に行ってくる」

「そうだな、お前に任せるぞアモン。適当に武具を持って行け。シーモアの名を出せばすぐ通してもらえるだろうから」

 父の言葉を聞き、アモンはそれに従った。すぐに準備に取り掛かり、必要なものを揃える。
 準備を済ませて玄関で靴を履いていた所、アモンの背後で真剣な表情で立つマリアがいた。

「お兄様、私もお連れください」

「いや、それは駄目だ。今のクロス城は以前とは違う。危険なんだよマリア」

「危険は承知です。お願いです、お兄様っ」

 マリアがこんな風に自分の意志を通そうとするのは珍しいことだった。
 だからかもしれないが、アモンはそれ以上反対せず、マリアも連れて行くことにした。

 二人は雨の降る中、急いでクロス城へ向かった。



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