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幼なじみ


「いい演奏だったね」
「うん」

2時間弱の演奏時間が終わり、僕と林さんは会場を出た。

「どう、初めての演奏会の感想は?」
「はあ、何と言うか……凄かった」
「ふふっ、凄かったでしょ?」

凄かった。
もし2時間の間興味の無い事に縛られたら退屈で死にそうになるけど、この演奏会はそうはならなかった。超一流の演奏とはいかないのに目を閉じるとスッと音が身体に染み込むみたいだった。

「またチケット貰ったら誘うね」
「あ、ありがとう」

また……か。またがあるのかなあ。林さんと駅で別れてふと思った。
もしまたがあったとして、その時は僕と林さんの関係は何なんだろう?
恋人?ゼミ友達?
そうこう考えていると絶交宣言以来面と向かっていなかった香苗が僕の家の前にたっていた。

「か、香苗……?」

恐る恐る名前を呼ぶと、自分の靴の爪先を見ていた香苗がゆっくりと顔を上げた。
凜として、意思の強い瞳。絶交宣言をされる前の、いつもの香苗だった。

「演奏会に行ってたんだって?」
「う、うん」
「告白された人とでしょ?」
「……うん」

いつもの香苗、だけど。
もしかして香苗、怒ってる?言葉にいちいちトゲがあるような気がするんだけど……。

「……っ慶司の馬鹿!だいっ嫌い!!」
「え、えぇっ!?」

いきなり叫んだかと思えば、香苗はそのまま自分の家の中へと走り去ってしまった。

「え……」

一人道端に残された僕はただ脳内で香苗の言葉を反芻していた。
大嫌い、大嫌い……

「ははは……」

大嫌いか。
ただ女の子に好かれただけで、出掛けるだけで嫌われるなんて。
僕みたいな奴が調子に乗ったからこんなことになったんだ。香苗だって調子に乗った僕が嫌いなんだ。ムカつくんだ。
何だか胸が支えて涙が出てきた。目からぽろぽろと流れるそれはちっとも止まらない。

「あんた家の前で何してるの?」

しばらく家の前で泣いていると母さんが家から出てきた。僕が泣いているのを見ると実に訝しげに目を細めた。母さんもこんな息子嫌いなはずだよね。いつもうじうじしてるし役に立ったこともない。
涙と一緒にマイナスな考えも止まらなかった。

「ううん、何でもない……」
「何でもないって……ちょっと、慶司!?」

母さんが制止するのも無視して、俯きがちに家の中に入っていく。
視界に入った時計を見れば、もうすぐ晩ご飯の時間だ。だけど僕はリビングには向かわず、2階の自分の部屋へ向かった。

「はぁっ……」

ベッドに俯せになり、眼鏡も外さないまま目を閉じた。
香苗はずっと僕と一緒にいて、年下なのに頼もしくて。きっとイライラしたことが何度もあっただろう。
それなのに香苗は、今まで僕に「大嫌い」なんて言ったことがなかった。にも関わらず今回は言われたということは、僕は相当調子に乗っているように見えたんだろうな……。


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あきゅろす。
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