純情ロマンチカ小説 転がり落ちるその先に [注]上條視点です その日、上條弘樹は悲運に見舞われていた。 電車に缶詰にされた挙句急病人の看病をするハメに…。 具合の悪いその人物はなんとなくだが見覚えがあったりする。 (もしかして、ウチの大学の奴か?) 病人を放っておくつもりは無いが、教え子なら尚更だ。 「それにしても、誰だ?学生証かケータイは…」 教え子だとしても、記憶があやふやな所を考えるに、文学部の学生ではないだろう。 無礼は承知の上で相手の鞄を漁り、学生証を発見する。 「えー名前は高橋美咲って、俺のテストで古典的ギャグをかました奴じゃねーか!」 顔は覚えていないが名前はハッキリと覚えている。入学後すぐのテストで解答欄を間違えて、一列ずらして記入したバカだ。始めの1問が正解だったため0点を免れた事と、ミスさえなければ上位の高得点だったため、強烈に記憶に残っていたのだ。 「俺に介抱されていると知ったら、確実に違う意味でぶっ倒れるな」 何せ『鬼の上條』の異名を持つ身。嫌われている自覚はある。 「イヤ、そんな事はどうでもいい。まずは家族に連絡を…」 電話番号はケータイを見ればわかる筈。 そーいやコイツは家族と同居しているのか?地方出身だと連絡しても迎えにこれないな。その時はどうするか? そんな事を考えながら携帯電話を拝借する。 鞄から取り出した携帯電話は、ご丁寧にも電源が切ってあった。 そのマナーの良さに感心しつつ電源を入れると、間髪を入れずケータイがなった。 「はい、上條です」 反射的に応答してから他人の携帯電話であった事を思い出す。 (しまった。どうしよう) コレが家族からならば問題ないが、赤の他人ならば、状況説明して良いモノか悩む。ケータイの液晶画面には『ウサギさん』の文字。 (誰だよウサギさんって?友人か?) 電話の相手も、予想外の人物が出た事で戸惑っている様だ。 しばしの沈黙の後、相手から話しかけてきた。 「…何故お前がソコに居るんだ?」 ……相手の声は、非常に聞き覚えがあった。 [続] 2009-07-08 up |