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純情ロマンチカ小説
投じた井坂の作る波紋
 
    警報発令

 ……兄ちゃん、どうしよう。俺、何気にピンチです。
 相川さんからの頼まれ事を終え、編集部を後にした俺は、井坂さんと出くわしてしまいました。
「あれ、チビたん。もしかしてまた秋彦絡み
 井坂さんの質問に頷きながら答える。
「はい、そうなんです。ウサギさん、また原稿忘れちゃって…」
「本当にどうしようもない奴だな。ところで、今ヒマ?」
 にっこり笑顔で話しかけてきた。
──ヤバイ君主(違う!!)危うきに近寄らず三十六計逃げるが勝ち
 なんだか知らないが、巻き込まれでもしたら、きっと絶対に俺が不幸になる
「ヒマじゃないです急いで帰らないとウサギさんが大変で…」
「つまりヒマなんだな」 混乱する俺の台詞に、冷静なツッコミを入れる。
 かくして、俺は井坂さんに捕獲されたのであった…。


 井坂さんは俺を一階のラウンジに連れて来た。
どうやら立ち話では済まない、長い話になりそうです(泣)

 …要約するとウサギさんの執筆活動11周年記念サイン会を大々的に開きたいらしい。去年10周年パーティーを企画したが、事前に察知したウサギさんが(原稿を人質に)逃亡したためにお流れになったらしい
「秋彦がああいう性格だということは、十分に把握している。面倒臭がって雑誌インタビューや対談もやりたがらんからな。
この際それはいい。だがサイン会は別だ
 井坂さんがテーブルを力一杯叩く。
「本は売れてナンボの代物。誰が買うかって、ファンが買うに決まっている
そのファンの要望を飲まずして、どうして仕事ができようか
わかるか?わかるだろチビたん
 熱弁をふるう井坂さんに両肩をおもいっきり揺さぶられる。
「俺に同意を求められても困…」
「なに『困ったときはお互い様?』やっぱりチビたんは良い…」
「なっ…俺そんなこと──」
「『俺に任せておけば大丈夫!』ああ、なんて頼もしいその台詞
──駄目だ。聞いちゃいないよ、この人。
 笑顔を崩さない相手の面の皮のアツさに呆れ、ため息をこぼす。

 結局根負けした俺は、井坂さんの頼みを聞き入れたのだった。
 向こうも必死だから、メチャメチャしつこいことといったら…。
 行きよりもヨロヨロになって、丸川書店を後にした俺だった。


[続]

2009-06-25 up


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