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幻想夢


目を開けたらそこはまさに幻想世界、という言葉がピッタリ合うような場所だった
こんなところに足を踏み込んだ覚えはないのだが
もちろん連れて来られた記憶もない
居心地が非常に悪い

長い、濡れた烏の羽のような黒い髪が動きに合わせて揺れる
彼の名はアラカルト
死んでいるか死んでいないか―その境界線を歩く、精神の存在
そう、『ここにはいない者』

・・・のはずなのだが
彼はこうして、未知の地面に自らの足で立っている
『消える前の姿』で

「くそ、どうなってるんだ」

苛立ちを隠しきれないように、虹色をした木々の森を歩いていく
あまりにも綺麗なもの
自分には似合わない
嗚呼、苛々する!
すべて壊してしまいたい―
―・・・世界は・・・

・・・澄んだ・・・始まりの―

人の声だ
少し大人びた優しい、それでいて悲しい歌声

―あぁ、丁度いい

暇だったんだ
少し遊んでやろう
そう思い、声の方向へ歩いていく
袖に仕込んである小さなナイフを握った

さぁ、どうしてやろうか

ぽっかりと穴が開いたように木が生えていない広場が見えた
真ん中に小さな切り株がある
そこに座っているのは、ここの木々の葉の色とよく似た髪色の青年

「眠りながら生と説く 白の精霊・・・」

青年はこちらに気づいたのか、歌うの止める
かなり近くまで来ていたアラカルトは思わず歩を止めた
青年の真っ黒な瞳が、彼の鮮血色の瞳を映す

動く様子のない青年の首筋にナイフを当てる
それを少しずらすと、ぷつり、赤色の血が流れた
黒い目を覆うように瞼をゆっくりと下ろす
するとどうだろう
浮かび上がるように青年の額に紋章が現れる

「何者だお前」

「ねぇ、早く帰ったほうがいいよ」

すぅ、と目が開かれる

「記憶の渦に呑まれてしまうよ」

ふわり
青年が首を傾げるのと同時に、淡い色の髪が揺れた
それが何故だか、無性に腹が立った

「!?」

目にも止まらぬ速さで青年を切り株から落とし、地面に倒れる
そのまま―ナイフを勢い良く振り下ろした

「殺してもいいよ・・・別に」

顔に刺さるか、刺さらないかのギリギリのところにナイフの刃はあった

「・・・お前、本当に何者だ?」

ここまでして怯えない人間なんて、生きてきた限り初めてだ

「俺は―」




「―・・・ただの、人だよ」

揺らぐことなく、答えた

―嗚呼、調子が狂う

―怯えた顔が見たい

―お前の、恐怖に歪む顔が、

紅色の宝石を閉じ込めたみたいな瞳で捕える世界はどんな形?

架空の物語は
いつだってあなたの傍に

眠りながら死を語る、黒の精霊

榛色に優しく澄んだ透明な瞳で捕える世界はどんな形?

始まりの唄は幾千の聖句を孕む

眠りながら生を説く、白の精霊


意識が薄れて、周りが歪んでいく中、

悲しく優しげな唄が響いた


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