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〜龍と刀〜
十二月第一週の休日Z
そこに居たのはある女性である。この幼女の保護者だろうか。とも考えたが生憎とそのような情報は持ち合わせていなかった。

「こら勝手に居なくなっちゃダメでしょ?ってあれ?君たち……」

幼女に近寄るが、どうやらぬいぐるみが相当気に入っているのか離れようとはしない。追掛けようとしてようやく三人に気が付いたみたいだ。

「あー!薫子ちゃんじゃん!でも……子供居たっけ?それはそれでショックが大きいんだけど……」

「こんにちは。と言うか何でその方向?普通妹じゃないかって推測しなよ……さすが井上」

「どうも先生」

三者三様の反応で相手を認識。井上の言うようにその女性とは陽たちのクラスの英語教師、薫子であった。やはり若いからか服装もお洒落だ。いつも通りの優しい印象がありとても可愛らしい。

「あの、お客様……」

店員にも仕事がある。まだ席に案内していないのだ。少々困り気味に声を出している。ここはどうするべきかと即座に判断し、陽は言う。

「中島、席頼むわ」

「そう来ると思ってた……」

井上は熊男続行中なので離れられない。陽か中島が残るか、挨拶をして去るべきかと考えた。しかし薫子がどうにも陽の成績面、授業態度にご執心らしく逃げる事が難しい。つまり、ここで縛りなく動ける人間は中島しか居ないのだ。

「ところでこの子は?」

「あ、うん。ごめんね、友達の妹なんだけど……勝手に動いちゃって」

「別に大丈夫っすよ!可愛いので持ち帰っても良いですか!」

「お前頭おかしいんじゃねえの?」

薫子の子供ではないと分かったからか急に元気になる井上。相変わらずぬいぐるみを背負っているので熊にしか見えないが。

「大丈夫、そんな事やったら私がぶっ叩いてあげるから」

井上の問題発言の後、颯爽と現れたもう一人の女性。ショートカットが似合う彼女。察するにこの幼女の姉なのだろう。

「遅いよカオルちゃん。しかも何か面白そうな子たちと話してるし」

「もう……座ってなよ」

「まあまあ。で、この少年と熊は?」

「熊じゃない!」

陽は少し感心した。まさかこの少ない時間で井上という存在の扱い方を理解するとは、と。

「お姉ちゃん、クマさん!」

「はいはいそうだねー。で、誰なの?彼氏?」

幼女を抱きかかえ、ぬいぐるみから引き離す。幼女はどこか悲しそうだったが。

「違うよ……!うちの生徒の龍神君と――」

「え?もしかして名前は陽って言わないよね?」

「そうだけど……知り合い?」

目を丸くして陽に向けるが、陽自身はこの女性が誰なのか全く見当も付かない。もし会っていたとしても記憶には残っていなかった。だから首を傾げる。

「覚えてない?私、苗字が門田って言うんだけど」

「かどたさん……」

「っじゃあそうだね……門田春斗に聞き覚えは?」

「あー……?」

しかし、それは彼女の名前ではないはず。つまりその名前を持つ人物の知り合い。門田春斗(カドタハルト)。記憶を辿る。引っ掛かりはあるのだが、思い出せない。そもそも知り合いに居たとして美人な人を記憶に残さない程陽は薄情な人間ではないはずだ。

「それでもダメかぁ……あの子も可哀想に」

「すみませんけど……」

残念そうな口振りだが、笑顔である。その人物の事を笑っているようにしか見えないが。

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