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〜龍と刀〜
微妙な空気
どちらも動きが停止。
先に口を開いたのは陽。

「お、おう……文化祭は良いのか?」

文化祭という言葉を使ったのは失敗だった。忘れていた記憶がまざまざと蘇ってくる。
文化祭、ライブで、大々的に、女の子から、告白を……。
そこで再び痛い沈黙が舞い降りる。思い出すべきでは無かった、と言ってしまうと失礼だ。ただ、こういう事は初めてで、どう対応すれば良いのか分からない。

「まあね。私はもう全力で走り切った……っ!」

こちらも言葉の選択をミスしたみたいだ。赤面し、俯いてしまう。
本当にどうしようかと、ほぼフリーズ気味の思考回路で考えてみるが、あの時の事が頭をよぎって仕方がない。
沈黙と、時間だけが過ぎていく。

「とりあえず中に入れよ。立ち話もなんだしな……」

「そ、そうね。お茶でも淹れようかしら」

表情だけは平静を保っているように見える二人なのだが、あからさまに距離を置いているのが端から見ても分かる。
ここは、さすが戦闘に身を置いているだけはあると評価するべきなのだろうか。
陽は本を持ちながら、紗姫はその後ろを、ある程度離れて歩く。
リビングへ到着した二人。陽は電話へ、紗姫はお茶を淹れるために台所へと向かう。

「(落ち着かねえ……この空気は非常に落ち着かない!何とかしなきゃならないとは思う、けど)」

まともに会話出来そうに無い。目を見るのは当然だが、顔を合わせるのも正直辛い。どういう風に、どういう話題で。そればかりが浮かんでは消える。
学習した。人間関係はやはり難しい、と。

「電話しよ……」

気持ちを逸らすために、本に印刷されている数字の羅列を順当に打ち込んでいく。
数回の待機音の後、業者の人が受話器を取ったみたいだ。

『はい、こちら窓之工務店でございます。何かご用でしょうか?』

一際明るい声で応対され、少しだけ気分が明るくなった気がする。

「えっと……窓の修理と、床の修理をお願いしたいんですが」

『了解しました。では、その内見積もりをしに伺うかと思いますが、いつ頃が良いでしょうかね?』

軽い感じで聞かれているのだが、多分相手は、まさかそんな重度に破砕されているとは思いもしないだろう。床に至っては焦げたりもしているのだから。

「明日、明後日は学校も無いので家に居るかと。出来れば午後にして欲しいんですが……」

どうせ起きれないだろう、というのが午前中に頼まない理由だ。つまりは一日か二日は冷たい空気に当たらなくてはならない訳でもある。別室を使うという手もあるが。

『ぇーでは、明日の午後二時頃はいかがでしょう』

狙い通りの時間だ。その頃になれば頭も少しは起きているだろう。

「それでお願いします」

『はい。それでは明日、担当の者を向かわせますので、よろしくお願いします』

「失礼しまーす」

溜め息と共に受話器を置くと、ちょうど紗姫がお茶を持って来た。ちなみに日本茶である。

「どうかしたの?」

「ああ、窓と床が大変な状態だから修理をな……」

「ふぅん……」

やはり会話が続かない。

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