〜龍と刀〜
段違いの……
何故、十六夜がこの集落に居るのかと言うと、強烈な反応があった事と、一番近くに居たのが十六夜だった事。
結界で住人を強制的に移転、無人にした後で戦闘を開始する予定だった。
しかし、少女だけはその効果範囲に含まれておらず、危険な目に遭わせてしまったのだ。
「チッ……貴様らごとき雑兵が!」
横から飛んできた異形、その頭部を即席で作り上げた炎弾で吹き飛ばす。
悲鳴すら上げる事なく、地に伏せる異形。動かなくなったそれは砂のように散っていく。
「俺様の相手に、なると思っているのか!」
強く地面を踏みつけると、四方八方から迫っていた化け物たちの足元から赤々とした火柱が出現。有無を言わさず灰に変える。
「ウヨウヨと沸いて来るな……いい加減あの穴ごと潰すか?」
倒しても倒しても減る気配の無い化け物たちに視線を投げ、それから頭上にぽっかりと開いた穴へ。忌々しそうにそれを睨み、木刀を向ける。
「あれが何なのかは知らねえが、害があるなら消し炭にするまでだ!」
木刀の先端、そこに意識を集中させ、炎を灯す。強い熱気に焼かれる化け物たち。ただの熱気でここまでの威力なのだから、今発動しようとしているもかなりの高威力なのだと安易に想像が付く。これが十六夜の実力。
「さあ、灼き尽くせ……?」
穴の中から新たな闇が一つ、零れた。先程とは違う、妙な煌めきを持った何かが。
「新手か?まあ良い、こいつで終わりのようだしな」
そう確信したのは、穴が次第に狭まっているからだ。
一旦魔術の発動を中止。そして、来るであろう相手に身構えもせず、ひたすら待つ。
目を閉じ、気配を探る。
「……そこだ!」
気合と共に振り抜かれた燃え盛る木刀は、炎の波となって襲撃者へと向かっていく。
しかし、渾身の一撃を、糸も容易く引き裂かれた。
「ほう……やるではないか」
姿の見えない相手に感心した声を上げつつも、続けて木刀を振るう。容赦ない炎が迫っては消える。そこそこ出来る相手のようだ。
「フフフフ……」
不気味な笑い声が十六夜の背後から。しかし十六夜は、
「その程度、予想の範囲内だ。消えろ!」
驚く事もせず、木刀を握った右手で裏拳を放つ。骨を砕く感触。綺麗にヒットしたみたいだ。
それから即座に振り向き、相手の攻撃に備える。
「黒い鎧、だと?どこかで聞いたような……」
そこに寝転がっていたのは、十六夜の言った通り黒い鎧を身に纏った、トカゲの顔をした物。腕と足だけは人の姿だ。
「何だこいつは……気持ち悪い」
正直な感想を口にした。
なかなか起き上がらないトカゲに木刀を向けるが、反応が無い。
「……貴様、下手な死に真似をするのは止めておけ。やりたいならまばたきをするな」
「バレ、た、のか……フ、フフ」
のっそりと上半身を起こしたトカゲは虚ろな瞳に十六夜を映す。
「あぁ、上手そう、な魔力……喰えば、人間、に!」
「貴様、何を言っている?っと、寄るな!」
無造作に打ち出した蹴りを、俊敏な動きで回避されてしまった。
「一筋縄では行かない、か……」
相手への認識をほんの少しだけ改めて、木刀を構える。
[*前へ][次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!