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〜龍と刀〜
十二月第一週の休日T
本日は土曜日である。十二月に突入したという事もあり、世間はより一層のクリスマス気分が蔓延していた。店のセール然り、ケーキの予約然り。少し歩いていればそこら中に“クリスマス”の文字を見つけられてしまう。しかし和風月名では師走。浮き足立っていても、どこかしらで忙しく走り回る人間が出てくるのだ。つい先日、この街では過去最速での初雪が観測された。十二月直前でもあり人によってはそこから走っていただろう。だがその雪も積もる事は無く、路面を凍結させた程度。やはりここでは積もらないらしい。雪も降る程の寒さである、という事の証明でもあった。
陽は久々に私服で外に出ていた。こんな日は鍛錬以外は炬燵に入って大人しくしているのが定石だったが、偶には友人との付き合いも仕方ないと割り切り、どうにか布団から出て来たのだ。しかもまだ午前十時前。

「……」

新調したスニーカーにジーンズ、適当に出してきたコートを羽織り、陽はただ立ち竦んでいた。あからさまに機嫌が悪そうである。朝だからだろうか。しかし、携帯を確認している事から察するに、待たされているのだろう。遅れてきた奴にはどのような罰を与えようかと必死に思考を働かせる。
すると、人垣の向こうから走ってくる二人の姿が見えてきた。待ち合わせを提案した人間だ。

「言い訳を聞こうか」

仁王立ちで。戦闘時に出すような威圧感で一言放つ。まるで刀のように鋭い一撃だ。寒空の下、冷気に晒され余計に研ぎ澄まされたようで。

「いやー寒いから布団から出れなくてさ」

「こればっかりは井上のせいだってはっきり言うよ。井上待ってたら遅れたんだからさ」

「はあ!?中島、お前だって俺が来ない間にコンビニで立ち読みしてたくせに!」

「なるほど全部井上が悪いのか」

「なんでそうなるの!?」

せっかく陽が必死で起きて体を動かしてきたのに、自分がやりたかった事をされて遅れたのがとても腹立たしいみたいだ。

「俺は三十分も待ったんだぞ。仕方ないから出て来てやったのに」

相当な苛立ちを放っている。心なしか周囲の気温が上昇しているのではないかと感じられるほど。

「本当にすまん!」

「はあーっ……じゃあ昼くらい奢れよな。さっさと行こうぜ」

無駄な労力はなるべく使わないようにしよう、と心に決めているのだ。それは日常生活だけではなく戦闘時にも同様。常に気を張ってるという訳でもないので負担は無いようだ。

「お、おう!ラーメンな!」

「あ?ファミレスだろ」

「確かにそっちの方が高い気がするけども……」

「まあ気分次第だ。ところでどこに行くつもりだ?」

ここは陽が身を引く事でどうにか話を進める。そうでもしないと昼飯の話題だけで時間が過ぎてしまいそうだ。なのでこの面子で出掛ける事となった原因にこれからの予定を聞いてみる。考えているか定かではなかったが。

「ほら、隣町の駅の近くか?一昨日くらいに新しくデカい店出来たじゃん?あそこ行きたい!」

それを聞いた陽と中島。顔を見合わせ頭を抱える。

「なあ井上?」

「なに?」

「お前、やっぱりバカじゃねえの?」

「そこまで考えてなかったなんて正直どういう頭の中なのか……」

「何だよ二人して……俺が一体何をしたって言うんだ!」

どうやら井上には何故二人がここまで憐れんだ視線を送っているのか理解出来なかった。だから腕を組み、必死に考えてみた。何かおかしい部分があったのかなと。

「何で現地集合にしねえんだよ……ここから移動してって面倒だろうが」

「そうだよね。駅出る必要がなかったんだけど?」

「ん?……あー!マジだ!意味ねえよこれ!どうしてくれるんだ!」

指摘にワンテンポ遅れてこの反応。これはもうさすがとしか言い様が無い。呆れる、を通り越してしまった。

「お前のせいだろ!」

「ご、ごめんよー!」

だがしかし、このやり取りで体は温まったらしい三人は、駅に向けて来た道を引き返す事になる。休日のせいか、時間はとても早く過ぎていく。
井上が急ぎ足で駅に向かうのに対し、ゆっくりと歩く二人。ふと、気付いたように中島が声を出す。

「ねえ龍神」

「何だ?また何かあいつの失敗見付けたか?」

「いや……率直に言うけど、龍神も遅刻したんだよね?」

「チッ……何故分かった」

深刻な顔で呟く。実は中島の言う通り、陽は遅刻をしていたのだ。集合を予定した時間はやたら早い午前九時。しかし、陽が待っていた時間は約三十分。多かれ少なかれ遅刻していた。

「全員遅れてるのね……」

「あいつよりはマシだ」

井上を下に置くことで自身を正当化。これで大丈夫、と陽は言う。

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あきゅろす。
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