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〜龍と刀〜
突入!夏休みX
*****


−−大浴場更衣室。

「お前ら、目が血走ってるぞ……」

自分たちだけで良かった、と思う陽。これで他の客が居たら迷惑になった、というか周りが感化されてしまうような気がする。

「あ、ああごめんごめん。僕とした事がつい……」

若干一名は意識が戻って来たらしい。ズレていた眼鏡を元の位置に。

「眼鏡のまま入るのか?」

「まあね。無いと見えないし、誰だか分からなくなるみたいだし」

「こいつ、まだ引きずってやがった……」

見るからに落ち込んでいる中島は、肩を落としながら着替えた服を畳み始めた。

「おぉ!直に見ると広いなあ!」

「こりゃ……確かに広いな」

「タダで良かったって実感出来るよ……」

まさしく大浴場である。この広さにたった三人というのはかなりの贅沢をしているのではないかと疑問が沸くが、事実、贅沢をしているのだ。

「よぉし中島ァ!早速計画を実行しようぜ!」

この広さのせいなのか、それとも単に欲望のせいなのかは分からないが、更にテンションが上がった井上は暴走気味に露天風呂がある方へ走り去った。ここで滑って転べば大爆笑物になるはずだったが、今の井上は普段よりスペックが高いらしい。

「龍神も気が向いたら来ると良いよ」

中島も、曇る眼鏡を気にしながら井上を追い掛ける。

「気楽だなあいつらは……さて、俺は久しぶりに長風呂させてもらうか」

椅子と桶を持って来て鏡の前に座った。この蒸気でもその鏡はほとんど曇っておらず、新品さが見て取れる。
そこに映った陽の体には至る所に傷がある。大抵が小さく細い物で、目を凝らさなければ見えないのだが。
その中でも未だ目立つのは、左胸の、ちょうど心臓の辺り。先日の雹との戦いで敗北した時の傷。

「……」

それを無言のまま泡で隠す。傷が消える訳ではないが、見ていると色々思い出してしまうのだ。巻き込んでしまった皆の事・敗北・龍化の時に見た父の姿・封牙・飛澤 壊。
バシャ!と思い切り頭から水を被る。今考える事じゃないと割り切って二人だけの騒がしいくも賑やかな露天風呂へと向かって歩き出した。

「こっちはこっちですげえな、っていう感想がお前らのせいで台無しだ」

「龍神!ちょうど良いところに来た!」

ペタペタと湯の張った床を歩いて二人の近くに。井上が飾りのために置かれたであろう大きな岩をよじ登っていた。

「いや、だって意図が見え見え過−−」

「ツッコミは後!今は……」

井上が陽のツッコミを遮って豪語する。その顔は何時にもなく真剣だ。

「今はこの死角になるここを制覇するのが大事なんだよ!」

「分からないし分かりたくもないそれにお前が上に居るのが気に食わない」

早口で井上に対抗。目線が上になっているのがムカつくみたいだ。

「まあ、お前らがそこまでやりたいなら仕方ねえ……手伝ってやる」

「ホントか!?さっすが龍神だぜぇ!」

「まさかこんなとこで苦戦するなんて……でも龍神が居れば大丈夫だね!」

どうやら二人には見えなかったらしい。陽の口元が不適に歪んだ瞬間を。
陽は軽々とその岩の頂上まで登り、二人に手を差し伸べる。いつになく優しい笑顔で。月華なら赤面物になったであろうという、それ位の笑顔。

「よし、二人共一気に引き上げるからなー。ぶつけたら謝る……あとはお前ら次第だ」

両腕に目一杯力を込めて引き上げる態勢に入る。

「せえ……のっ!」

元から岩の頂上まで引き上げるとは言っていない。二人は陽の脇をすり抜け、男女を仕切っていた柵を……超えた。

「あ……?」

「飛んで……る!?」

二人が気付いた頃にはもう眼下に湯船が迫っていた。
ドーン……と水しぶきが上がるのを確認した陽は満足そうに岩から降りて肩を回す。
柵の向こうから物凄い殺気というか怒気を感じた陽。とりあえず露天風呂から逃げる事にした。

「龍神ぃぃ!助け、助けて!」

「あ、あははは……何でこんな目に!?」

たった今、大浴場に二つの命が散った……。

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