〜龍と刀〜
突入!夏休みV
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−−そういう成り行きで結局見知ったメンバーが勢揃いとなったのだ。
「で、月華。お前いつから居た?」
ビーチパラソルの下で休憩していると、何やら良い臭いがして来たのでとっさに顔を上げてみた。
少し後ろの方でバーベキューの準備をしている旅館の人が目に入り、そこから目線をずらせば、髪を結っていて一瞬誰だか分からなかったが、オレンジ色の水着を着た月華が楽しそうに手伝いをしていたのだ。旅館に着いた時点では会わなかったはずなのだが……。
「え?昨日からみんなと居たよ?さっきまで料理のお手伝いさせてもらってたの」
「なるほどな……じゃねえ!大丈夫なのかよ、旅館の料理なんか教えてもらって?秘伝のなんとかみたいなのあるんだろ?」
「あぁ、それなら問題ありませんよ。味付けや切り方について教えただけですから。それにしても月華さんは筋が良い。卒業したら料理人やりませんか?」
隣で作業をしていた女性が笑顔で返して来た。そしてさりげなく勧誘しているが、テレビなどで聞く限り、包丁を持たせて貰うのに数年は掛かるらしい。料理をするようになるまで何年掛かるのやら。個人経営なら別になるのだろうが。料理の腕を褒められた月華は照れながらも、かなり嬉しそうに答えた。
「そ、そんな筋が良いだなんて……でも、料理長さんの方が凄いですよ!」
これまたテレビで見る限りなのだが、料理長というのは大抵男性のような気がする。女性も居るのだろうが、あまり聞いた事が無い。
「(……この人は料理長さんと呼ばれて気にならないんだろうか?)」
率直な疑問だった。
「さて、そろそろ良いですね。皆様を呼んでくれますか?」
「あ、はーい。陽ちゃん、お願いね」
「……何で俺に回ってくる?はぁ……」
料理長が月華に頼んだのは分かるが、月華が頼んで来たのは、ただ面倒だっただけだろう。一人居れば焼け具合だってどうにかなるだろう、と独り言を呟きながら定番のビーチバレーをしている面々に向かって歩き出す。
「おぉーっと井上、格好良くハンデを付けてあげたのに大差で負けるのか!?」
中島が実況モードに入っていた。その言葉だけで大体どんな状況なのか理解出来る。
井上が春空・紗姫ペアにハンデを付けたは良いが、紗姫の運動神経を知らずにやってしまったら思い切り負け越した、といった所だろう。
「飯が出来たらしいんだが……っと、面白そうだからちょっと見てから行くか。あ、続けて良いぞー」
「うぅ……このままじゃ負ける!龍神、手伝−−」
「あれ?男なら正々堂々戦うんじゃなかったのかしら?」
結構容赦ない紗姫。かといって井上と同じチームになるのは絶対に嫌なので、紗姫の意見に賛同しておく。
「有言実行しなきゃ、なあ?中島」
「それにまさかとは思うけど、女の子に井上が負ける訳無いよね?」
精神的に追い込む事で井上が面白い行動をしてくれれば良いな、というのが二人の狙いだった。
「もう、あんまり遅いと冷めちゃうよ?」
「それもそうだな……」
「じゃあ、後一点取った方が勝ちって事で」
流れる沈黙。どうやらかなり真剣に勝負をしているようだ。
「うおぉぉ!食らえ、俺のスーパーサーブを!」
無駄にボールを高く上げる井上。太陽が眩しくて打てなかった、という事にはならず、なかなか強い球が放たれた。
「行くよ、望ちゃん!」
「……はい」
しかし紗姫は難なくこれをレシーブすると、春空がぴょんとジャンプしてボールを叩く。
「間に合わない……!」
ポスッと気の抜けた音が試合終了の合図となった。
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