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〜龍と刀〜
学校嫌い?
太陽光がアスファルトに吸収され、熱が下からも襲い来る通学路を、陽は気だるそうにのそのそと歩いていた。これが地球温暖化というやつなのだろうか。

陽の自宅から学校までは時間にして約三十分。自転車を使えばその半分で着くことも可能だが、わざわざ自転車を倉庫から引っ張り出すのも億劫に思った陽は、仕方無く歩いての登校をしている。
そして、時折見かける小学生を目にしては、こう呟く。

「良くはしゃいでられるな……学校って言葉を発するのもイヤなのに、どうしてそんな風に楽しそうに登校出来るんだよ……」

先程から溜め息ばかり吐いている陽は、言うまでもなく学校が大の嫌いである。それもそのはず、陽は小学校には行っていない。ひたすら剣術に励んでいたため、学校と言う存在すら知らなかった。初めて知ったのは、『金鳳流』への練習試合をやりに行った時。
当時小学五年生の月華に教えてもらったのだ。

『陽ちゃんは、学校のお勉強で何が好き?』

『……ガッコー?なんだそれ?』

この会話を経て、陽は学校という存在を知ったのだが、不思議と行きたい、とは思わなかった。
陽としては学校に行く必要は無く、剣術を習うために漢字についての知識は、並大抵の大人よりもあった。しかし、数の計算や戦う上で特に要らないと判断したものはバッサリと切り捨てて来たので、今でもその考えを変えるつもりは無い。

だが、月華が小学校を卒業した時だった。『剣凰流』頭首の父がこう言ったのが全ての始まり。

『陽!学校に行って青春を謳歌するのだ!これは命令なり!』

意味不明な命令を残して、どこかへ行ってしまった。

「あの時の顔……絶対忘れねぇ。学校なんて、ただの監獄だ」

それ以来陽はその師匠の父の事を恨んでいる。家から追い出し、鍵も付け替え、電話番号までも替えた。月華からは、「お年寄りいじめちゃダメだよ!」ときつく言われたが、無視している。

「あいつはひょんなことで死ぬような奴じゃないからな。……生きてはいるだろ」

投げやりではあるが、陽にしてみればこれが彼なりの優しさなのかもしれない。もし、死んだとあれば一応、葬式くらいはしてやるつもりらしい。失礼だが。

そんなこんなで中学に入学し、何事もなく卒業。そして、いつの間にか決められていた高校への入学……。これは、祖父と校長が麻雀仲間という、明らかに校長が職権乱用を行った結果でもある。なんせ、陽の学力で月華と同じ学校に入れる訳は無いのだ。
嫌々でも、通うのが陽。月華に頼まれたからというのもある。

ぼーっとしている内に校門が見えてきた。そこに立つ人影。

「ん……あいつは、体育の筋肉野郎?って事は……」

人以上の視力で、学校に取り付けられた時計を見る。

「龍神ー!あと一分で遅刻だぞ!」

「あれ?いつも通りに出て来たんだけどな……走るか……」

強く地を蹴り校門まで全力でダッシュする。後ろにも何人かの遅刻候補者が居たが、助けてやる余裕は全く無い。
何故急ぐのかと聞かれれば、陽はこう答えただろう。

罰が怖いから。

そう。体育教師は、遅刻五分前から校門に立ち、遅刻者達をメモ。体育の時間に罰を与える。
それはそれは恐ろしい罰を。
肉体的にも精神的にも強烈な刺激を与える。
おかげで遅刻者は激減し、その点に関しては学校側も評価していた。

「五、四、三……チッ」

ギリギリで校門をくぐり、息を整えるためにゆっくり歩く。

「今舌打ちしたよな、あいつ……俺、昨日から走ってばっかだな……」

遅刻者達が体育教師の前に並び、学年・組・番号を失望感と共に述べて行く。
それを聞く体育教師はとても笑顔だった。

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