〜龍と刀〜
影の主T
陽の読みは当たってしまった。
先程の黒い人型と紗姫が交戦中で、見るからに紗姫が押されている。一体だけならばどうにでもなるだろうが、数が多い。
「きゃっ!」
遂に紗姫の竹刀が真っ二つになり、人型の追撃で後ろの木に叩きつけられた。陽が到着したのはその後だ。
「伏せろ!紗姫!」
抜刀風に構えた白銀の刀身に、水気を纏わせる。力の限りに振り抜かれた水気は、水圧という名の刃となって紗姫の周囲に居る人型を襲う。人型は紙を切った時のような音を立てて消え去った。
急いで駆け寄ると、紗姫は木にもたれかかったままぐったりとしている。交戦中に出来たのか、その白い肌には無数の傷があり、制服も切られているのだが恥ずかしいなどと言っていられない。
「おい!とりあえず治療を−−」
白銀を地面に突き刺し、苦手な治癒魔術の術式を組み立てようとした時だ。
背中に強烈な痛みが走った。棒のような平たい物を強く当てたれた時に似た痛み。痛みを堪えて傍らの白銀を振り向き様に抜き、回転の勢いで、音もなく現れた人型を薙ぎ払う。
「何なんだこいつら……術者は、どこだ?」
気持ちを落ち着かせ、耳を澄ます。聞こえるのは風の音、街の喧騒のみ。次は白銀が気配を探る。
「我が感じるのは陽の魔力、そしてこの娘の魔力だけ。術者の気配は無い」
魔力に敏感な白銀でも察知出来ないとなると、余程隠蔽が上手いのか、それとも別の場所から遠隔操作しているのか。ともかく、今は紗姫の治療を−−。
「油断、した?」
聞き覚えのある声、それと首筋に当たる冷たい感触。
陽の思考は回る。白銀の情報だけで足りたじゃないか、この場に感じるのは自分と紗姫のみだ、と。つまり−−。
「そうか、お前の自演か……紗姫」
−−犯人は紗姫しか居ないのだ。
後ろは見れないが、明らかにクス、と笑いが漏れた。
「どう?私の演技は?」
「完璧に騙された……自分を傷付けてまで何をしたかった?」
首筋に当てられているのは金属か。しかし一体どこから……という疑問は白銀が解いてくれた。
「なる程、繰影術(ソウエイジュツ)か……」
自身の影を繰る事が出来る術。それが繰影術。
「さすが白銀さんね。でも、繰影の真髄は目に映るどんな影でも操る事なの。私はまだそこまでたどり着いて無いわ」
陽は紗姫が喋っている隙に首筋に当たっていた金属を押しのけ、距離を取る。
紗姫の手に握られていたのは、両刃の大剣。これも繰影術で創られた物なのだろう。
「どうしてこんな事をした?」
「んーそうね……強いて言うなら仕事だから、かな?」
「そうか……どんな仕事かは知らねえが、騙された借りはしっかりと返させてもらうぜ!」
強く地を蹴り上げ、土を巻き上げる。我ながらせこいやり方だとは思うが、紗姫は獣族なのだ。嗅覚や聴覚、視覚も人以上なはず。陽も負けてはいないが、それでも純血と混血という埋められない溝がある。
「それじゃ、始めよっか。試合の続きという感じで、ね!」
金属が激しくぶつかり合う音が開戦の合図となった。
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