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〜龍と刀〜
対戦相手は……
「おいおい、女子であの一撃か?あり得ねえだろ」

ぶつぶつと独り言のように呟きながら立ち上がり、対戦相手もとい八雲に向かって歩き出す。

「しかもあんなやられ方はな〜。滅多に見られたもんじゃないよね〜」

「うるさいな……だから防具着けて戦うのは嫌いなんだ」

「いや、多分それ関係無かったよ〜?あの負け方は」

自分でもそう思うが、納得いかない。あんな位置に竹刀があるなんてまったく気付かなかった。だから余計に納得出来ないのだ。
二人に気付いたのか、八雲も周りの部員たちから離れてこちらに歩み寄ってきた。

「初めまして、だよな?八雲……さん?」

「そうね。私は八雲 紗姫(ヤクモサキ)。早速だけど、さん付けは禁止よ?それと、名前で呼んでね?同じ学年なんだから」

「お、おう。分かった……」

「押されてるね〜」

八雲−−紗姫は笑顔で右手を差し出し、握手を求める。陽もそれに応えてしっかりと握ってやった。

「龍神君に一つ聞きたいんだけど、最後のアレは手を抜いたって訳じゃないわよね?」

頭に巻いていたタオルをするりと解く紗姫。そこから流れ出たのは、日本人らしからぬ金色の長髪。窓から入る夕日が反射して、とても輝いているように見えた。

「当然だろ?あんな強烈な一撃喰らって黙ってやられてやる程俺は優しくないぞ?むしろその細い腕からどうやってあんなのを打ち出したのかを知りたい」

「ねえ?それって誉めてるの?聞き取り方によっては私が怪力女って言ってるようなものになるわよ?」

「そんな事を言った覚えは無いが……」

陽は内心、こんなに気の強い女子だったとは……、と頭の中での紗姫に対するイメージを書き換えていく。はっきり言うと、最初のイメージは完璧に上書きされた。

「でもまさか私が“あの”龍神君に勝つなんてね。これでみんなに自慢出来るわ!」

「ま、話のネタにはなるかな〜?実質八雲は龍神より上ってことになった訳だし?」

「頼むからやめてくれ……なあ紗姫、あのってなんだ?」

止まる事を知らない幸輔と紗姫の会話をなんとかして違う方向へ変えようと、無理矢理に話題を提供する。

「知らないの?龍神君、剣道やってる子たちの間ではかなり有名なのよ?全国大会を周りが弱いという理由だけで棄権した龍神 陽……小さい子供だって龍神君みたいに、って練習してるのに」

「……マジか?そんな大事になってたのかよ?無難な所までやっとけば良かったな……」

手を抜くのはあまりやりたくないが、こんな事になるくらいだったら、と頭を抱える陽。考え直してみると、全国大会な訳であって、かなり強い人だって出場してたはずだ。わざと負ける必要も、もしかしたら無かったかもしれない。

「私だってそれを聞いて剣道始めたの。同い年なのにスゴいなって。龍神君は今でも目標よ?」

「俺なんかより上は沢山居る……だけどそう言われるのは悪くないな。よしっ!気分良い状態で帰る!」

ざっと更衣室へと走る。その姿が見えなくなってから紗姫も立ち上がり、未だ練習中の部長にこう言った。

「部長!私も今日は帰ります!」

「え?あ、おい八雲!……行っちまった」

「あ〜そういえば部長?今日の掃除、八雲でしたよ〜」

面を被っていて見えないが、きっと溜め息を吐いているだろう。多分、八雲が女子じゃなかったら首根っこ捕まえてでも連れ戻すはずだ。

「仕方ない……今日は全員でやるぞ、良いな?」

「はーい……」

一気にやる気を失った部員たちを尻目に、幸輔もまた、帰宅するために音も立てずに立ち去っていた。部長がそれに気付いたのは部活が終わってからだそうだ。

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