[携帯モード] [URL送信]

〜龍と刀〜
一本勝負!
陽が定位置に着き、竹刀を構える。相手は陽よりも背が低い。朝の幸輔から聞いた物が本当ならかなり出来る人だ。油断ならない。

「それではこれより、龍神と八雲(ヤクモ)の試合を開始する!御門の意見で、時間無制限の一本先取制だ。ちなみに、分かっているとは思うが、突きは禁止だぞ……開始!」

開始の合図が合ったが、両者は動こうとしない。お互いの出方を見ているのだ。

「(動きの読み合いは苦手だな……チッ、面倒だ!一気に仕掛ける!)」

結局陽が先に動いた。両足に力を込め、間合いを詰める。一撃で決めるために初めから本気で打ち込みにいった。
試合を観ている部員たちから驚きの声が上がる。

「っ……!」

陽の初撃が捉えたのは、八雲の防具ではなく、手に握られている竹刀。陽は無理にでも押し切ろうと鍔迫り合いへと持ち込む。力技ならばいけるだろうと踏んでの事。
案の定、鍔迫り合いになってからは陽が押している。
ふと、両腕に掛かっていた重みが無くなった。何事かと思えば、八雲が竹刀をずらし、力を逃がしていたのだ。それに気付いたのは、自分の竹刀が床を叩きつけてからだった。態勢を立て直そうと床を叩いた反動を利用し、頭上から迫っていた八雲の竹刀を防げる位置へと持ち上げる。
細い腕から放たれた攻撃はあまりにも重く、一瞬だが、剣道の試合だということを忘れさせた。それくらいに強かったのだ。
防がれるのを見るや否や、すぐに竹刀を引き、距離を取る。

「すげえな、あの二人。悔しいけどケタ違いだよな……」

「龍神はちっさい頃からやってたらしいから当然だとしてもね〜。八雲はホント、あそこまで出来るなんて、かなり努力したんだろうな〜」

「そう言う御門だってオレたちからすれば龍神と同じくらいじゃんか」

二人の試合を観ていた幸輔を含む部員たちが喋り始めた。自分たちのレベルとの差を実感し、ある者はこれから頑張ろうと決意し、またある者はやる気を失ったのか、辞めようかなとまで言い出す始末。
八雲の緩急を付けた攻撃の仕方に翻弄されている自分に苛立ちを覚える陽。自分でも分かる程に動きが粗雑で、直線的になりつつある。

「(落ち着け……相手の動きをしっかり見て振らないと)」

八雲は自分からは仕掛けて来ようとしない。陽としてはそれ自体に怒りを感じるが、それは体を休める好機でもあるのだ。面で隠された頬に汗が流れる。ゆっくりと息を吐き、気持ちを落ち着かせ、どう出るべきか思考を巡らす。視線が実際の戦闘を行っているかのように鋭くなる。

「お、龍神は本気になったかな〜?さあ八雲はどう対処するのか〜?部長はどう思う?」

「うーん……龍神の本気を見た事が無いからどうとも言えないけど、かなり面白くなるんじゃないか?」

部長は審判をするのに疲れたのか、幸輔の隣で実況をしていた。

「(相手が緩めるタイミングを掴めれば俺は追撃が出せる……試してみるか)」

最初と同じ様に鍔迫り合いに持っていく。当然ながらすぐに緩めてくる訳ではない。

「(あん時は……ああそうか。なるほど)」

一人、面の中で笑う。何か分かったらしい。竹刀を握る手と支える腕に力を入れる。それに合わせて八雲も力を込めてきた。

「今、だぁ!」

自分がやられたように竹刀を受け流すように後ろに引き、胴狙いの一撃を見舞う。

「っとと、し、勝負あり!」

部長が口に含んでいたスポーツドリンクを急いで飲み込み、二人に制止を掛ける。

「勝者は−−」

周りが静まり返り、陽と八雲を除いた部員が次の言葉を緊張の面持ちで待つ。

「−−なんと八雲だ!」

「おお!!」

「おめでとうー!」

一礼し、試合が終わった。
陽はどさっとその場に座り込み、面と小手を外す。そしてそのまま床に寝転がった。

「やあやあ良くがんばったよ〜」

「久しぶりに楽しめたけど……八雲、さんってどんな人です?」

幸輔から飲み物を貰い、少しずつ飲んでいく。

「見てれば分かるよ〜」

陽は、八雲が面を外したのを見て、本気で驚いた。

「ハハッ……マジかよ」

「マジだよ〜。本人と話してみるといいさ〜」

引きつった笑顔で八雲を見た。
まさか女子だなんて誰も思わないだろう。だが、そこに居たのは紛れもなくこの学校の女子生徒だった。

[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!