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〜龍と刀〜
放課後、部活へ
午後の授業はいつの間にか終わっていた。今は帰りのホームルームが行われているらしく、担任教師が何やら連絡をしているのが耳に入る。当然ながら聞き流しているのだが。

「……以上!」

この一言と共に教室が段々と騒がしくなっていく。部活へ向かう者や委員会へ向かう者、未だに友達と話をしている者。それらをぼーっと見てから思い出したように席を立つ。

「あ、陽ちゃん、今日は先帰るね。お家の手伝いがあるから」

「ん?ああ……て事は飯はどうなる?」

「確か朝ご飯の残りが冷蔵庫に入ってるから、それでガマンしてね?」

そういえば『金鳳流』は盛大に七夕祭りを開くとかで毎年準備に手間を掛けるんだったか、と思い出す。

「大変だな……弟子連中も無条件で労働対象に含まれんだろ?」

「うん。私とお母さんはお弟子さんたちのご飯作りなの」

それじゃ、と手を振って足早に教室を出て行く月華を見送ってから陽も動く。

「龍神、ゲーセン行こうぜ!」

「お前が金出すなら行ってやろう」

「似たようなやり取りを見たことがあるね」

「とまあ、ふざけてらんねえんだよ。部活に行かなきゃならんからな」

いつもと同じく井上の誘いを交わし、歩調を早くする。そろそろ急がなければ相手方を待たせる事になってしまう。

「さすがにマズいよな……どんな人かも知らない訳だし」

そう思ってるのなら走れば良いのだが……。走る気は微塵も感じられない。
今回はちゃんと靴を履き替えてから部室へと向かう陽。どうせ一戦交えたらそのまま帰るつもりだからだ。
校庭では、野球部が声を張り上げながら練習に身を投じていた。大会の予選があるため、雨上がりでぬかるみだらけの状態でも必死に白球を追いかけている。これぞ青春、とでも言うのだろうか。
しかし、陽はそれを見てこう言った。

「よくもまあ部活なんてやってるな……こんな事に時間を割くなんて俺には理解出来ねえな……そして俺はその部活に向かって足を運んでる訳か」

本人たちが聞いたら大変な事になりそうな発言だが、陽にとって部活はその程度にしか思われていないのだ。

「相変わらず活気があるのか無いのか……」

剣道部の道場に着いた。確かに活気があるとは言えないが、中からは結構音が聞こえて来ている。人が少ないから響いているという考え方も出来てしまうが。

「おお!やっと来たか龍神!さっさと着替えて来い!」

「ええと……誰でしたっけ?」

「龍神、部長だよ〜」

戸を開けた途端に、剣道の防具を全身フル装備した人に話し掛けられて困っていた陽に、幸輔がフォローを入れる。陽は思い出したのか思い出していないのか、適当に相槌を打つことで場を流そうと謀った。

「どの人ですか先輩?」

「あ〜居た。あそこに居る素振り中の人〜」

幸輔が指差した先に居た人は、こちらに気付いたらしく、素振りを中断して丁寧に頭を下げてきた。慌てて陽も礼を返す。
この時点で陽の頭の中に出来た勝手なイメージは、礼儀正しい人なんだろう程度。会話をしていないので年齢も性別も分からない。

−−数分後。

防具を完全に着用した陽が部室から出て来た。防具を着けるのは数ヶ月振りで、感触を確かめながら臨まなければならない。

「二人共、準備は良いのか?」

部長が審判をするらしい。この勝負の後の練習の事も考えてなのか、防具は着用したままだ。

「あ、ちょっと待って下さい。二、三回素振りさせてもらえますか?」

陽が手を挙げて部長に聞く。一応、防具の感じや竹刀の感触、腕の調子の確認をしておきたかった。
一振り目は縦に大きく。その勢いのまま次は横に凪ぎ、最後にもう一度直上に持って来た竹刀を力の限りに振り下ろす。空を切る音と共に静寂に包まれる道場内。

「大丈夫だな……では、始めましょうか」

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あきゅろす。
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