〜龍と刀〜
〜幕間・協会の懸念〜
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雹との戦いが終わった二日後。
「皆ももう知っているとは思うが、封牙の存在が明らかとなった」
着物姿の男性が紙を見ながら話す。その言葉に眉をひそめる協会の長。
「剣凰の頭首代理からの簡易報告によると……お手元の資料を。妖刀としての本来の能力は衰えてなく」
ペラ、と紙をめくる音が虚しく響き渡る。めくられた紙には、字がびっしりと詰めて書かれていた。
「斬った物から魔力を吸い取る、使い手の魔力を喰らうのも、過去と同様と思われる」
「ふぅむ……犠牲者が十三名か。事後処理には念を入れてやっておかぬと……」
自慢の顎髭を撫でながら、資料に目を通していく。
妖刀封牙。過去の文献で得た知識だけでどこまでの対応が可能なのか、今回出た被害をどうやって隠すのか、やらなくてはならない事が山積みだ。それでも、妥協は許されない。
「うむ……蓮乃付近に師団を配備しておこうかの。彼等の育成に関しては金鳳と御門、各分家が行うこと」
筆で文字を連ねていく長。その頭の中には、今出来るであろう最大の対策が練られている。
書き終えた紙を木気の術で瞬時に乾かし、隣に居た男性へと手渡す。
「承知。早速手配して参ります」
その紙を手に男性は部屋を出る。
「治癒士を街の各所に潜伏させるとしよう。衣食住は協会が負担する。数は……五十じゃ」
「ちょっと待てヒゲじじい。そんな大々的に動かす必要があんのか?」
口を挟んだのは、煙草を吸っている男−−『金鳳流』頭首、鳳 十六夜。
「何か良い案でもあるかの?」
「案もクソもねえが……妖刀ってだけで本質は刀だぞ?ぶっ壊しちまえば関係ない。それに−−」
十六夜は新しい煙草を取り出し、火を点ける。紫煙が立ち上り、それを見ながら言葉を続けた。
「今ここで師団を動かすって事はだ。敵に手の内曝してるのとなんら変わんねえ……もし、デカい戦いがあるとして考えろ。魔物の集まりといえども敵は組織だ。戦術ぐらい立ててくるだろ?……鈍ったかヒゲじじい」
顎髭を撫で、思考を巡らす。十六夜も一流の魔術師だ。素行が悪かろうと実力は確か。
「一理あるの……師団を行かせるのを延期にし、少々流れを見極めるとするかの……じゃが十六夜。もしまた被害者が増えるとあらば?」
場の空気が凍り付く。命の問題を無碍にする事は出来ないというオーラを放つ長。
「剣凰のガキが居るだろ?白銀も居る……しくじっても、蓮乃には俺様と御門が居るしな」
「弱気に出ていると思ったら、結局は自分なのじゃな」
木刀を持って障子に手を掛ける。言いたい事は言ったため、帰るつもりだ。
「ああそうだ。前回の任務の報酬、現金で今すぐに頼む。月華の誕生日プレゼントを買ってやらないとな」
今日はこれを言いに来たらしい十六夜。自分の娘の誕生日を忘れていないのは良い事だが、タイミングを間違っている。話が始まる前に言うべきだった。
「まったく自分勝手な人だ……よくもまあ頭首になれたものだ」
「だが、あれとてかなり格の高い魔術師。確かに、陰口を叩く私達の方がレベルで言えば低いのかもな……」
室内に降りる沈黙。何も言えなかった自分たちが恥ずかしくなったのか、誰も喋ろうとしない。
「どうも〜。会議中失礼しますよ〜っと……(うわ辛気くさいな)御門の幸輔です」
沈黙を破ったのは間延びした声だった。
「ちょいとじっちゃんに……いえ、頭首に話があるんですが〜?」
「何だ幸輔?その話は今しなきゃならない話か?」
「うん、まあ。ボクとしてはかなり大問題なんだけど……どうぞ皆様はそのままで〜」
「長、少しばかり席を外します」
立ち上がったのは、白髪頭の男。幸輔の祖父らしいが、印象が全く違う。イメージだけで言うなら、頑固そうな人だ。
障子を閉め、祖父に向き直る幸輔。
「で、何だ?」
「実は、身代わりの式紙がやらちゃって……それでもう一回作り方見せてもらいたいな〜なんて」
「……自らの足で学校に行け」
幸輔の願いは聞き入れられることなく、一蹴されてしまった。
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