〜龍と刀〜
朝、登校前
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朝、昨夜閉め忘れたカーテンから日差しが容赦なく部屋の中に広がる。
今年の夏は早いらしく、多少、セミの鳴き声も聞こえて来た。
陽は睡眠中である。日差しを避けるため布団にくるまっていた。
先程から、その体に微量な揺れを感じているのだが、それを気にはしていない。
「……起きろー!」
「んぁ……」
ボフッという鈍い音。それと腹部に微妙な痛み。
半分も開いていない目をこすり、痛みの原因を探す。
「何だ、月華か……起こすのに腹を殴るのは止めろ……」
腹部に突き立てられていたのは、拳だった。拳といっても男が持っているようなゴツいモノではない。
「むぅ。かれこれ五分も揺すってるのに、陽ちゃん起きないんだもん……ご飯、作らないよ?」
「……それは困る。とりあえず、どいてくれないか」
陽を起こした彼女の名前は、鳳 月華(ホウ ゲッカ)、陽の幼なじみであり、良き友人でもある。茶色がかった髪を肩の辺りまで伸ばし、瞳は明るい茶色。可愛い、という形容詞を使うのが妥当であろう。
彼女は、違う剣士の家系で生まれたが、剣術やら魔術、幽霊や神などといった科学的に有り得ない現象、事象を全く信じていない。そうなってしまったのには理由がある、と陽は思っている。
普通、武道や茶道などと言った、名に『道』と付く物には流派が存在し、権限や地位をめぐっての流派争いもある。
しかし、陽を引き取り剣術を教えた『剣凰流(ケンオウリュウ)』と、月華の家の『金鳳流(キンホウリュウ)』は古くからの縁があり、稽古のために使ったり使われたりしていた。余談だが、陽と今の『金鳳流』頭首とは、犬猿の仲らしい。
現『剣凰流』頭首は剣 達彦(ツルギ タツヒコ)で、彼こそが陽に剣術を教えた張本人だ。だが、今、彼は魔物の討滅に出たっきりで、音信不通。
彼ぐらいの実力者なら、一日もかからずに終わらせて来るはずだが、半年以上たった今でも帰って来る気配は無かった。今は、陽が頭首代理として仕事をしている。
その時から月華は陽の事を心配して、頻繁に出入りするようになった。どちらかとしては、ほぼ住んでいると言っても過言ではない。
朝晩と家に来ては、陽と自分の飯を作り、休日は掃除・洗濯までやってくれる。
この話は学校で大分有名になってしまったが、陽は特に気にしていない。だが、一部の男子から襲撃を受けたり、羨望の眼差しを受けたりしている。
前者はことごとく打ち負かし、後者に対しては、どうしてそんな目で見られるのか良く分からなかった。
「早くしなきゃ遅刻しちゃうよ〜?」
「ああ。先行っててくれ」
適当に投げて置いたカバンに、月華の作ってくれた弁当を丁寧に入れる。教科書類は全て学校に置いて来ているので、準備はこれだけ。
「さて……行きたくないが、行ってくるか。留守中は頼む、白銀」
「うむ。何かあったら、喚ぶと良い。式紙は忘れずにな」
白銀と軽い挨拶を交わし、陽は家を後に、学校へと向かった。
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