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〜龍と刀〜
特訓
十六夜からの課題は、単純な物だった。
遠くにある的を撃ち抜く。それだけならば問題は無いのだが、白銀の使用禁止と魔術は火気の術だけを使用する事が条件として加えられたのだ。
白銀が媒体となるからというのと、火気の術は十六夜の得意な属性であるが、陽の不得意な属性だからという二点。
得意な物だけ伸ばしても、他が足りなきゃ意味がないとの事。

「手本見してやるか」

ゆっくりと右腕を上げ、肩の高さで止める。

「良いか?まずは魔力を集める。今回は……的が小さいからな、指でやれ」

人差し指を突き出し、的−−術式を組み込まれた紙−−に照準を合わせた。
魔力が集められているのだろう。指の先端部には小さな火の玉が構成されていく。

「そして、撃つ!」

銃を撃つように腕を曲げる。
空を切る音はさながら実弾だ。
数秒の後、的は燃える事なく綺麗に丸い穴が開いた。当てる事なら誰もが出来る。それを燃やさずにやるのが、一流の魔術師。

「まあこんな感じだ。やってみろ」

「あ、ああ。分かった」

見様見真似で人差し指を突き出して、集中する。そして、言われた通りにイメージ。

「(火の玉、火の玉……火の、弾?)」

頭の中で自動的に変換された文字。雑念が入ったと考えよう。
小指の先ほどに小さかった火の玉は、膨れ上がる。陽のイメージする“弾”とは、攻撃用なのだ。当然、威力も。

「おい、貴様!やりすぎだ、早く消せ!」

十六夜が叫ぶのと、陽が発射するのは同時だった。
爆音が地を揺らす。
弾が当たった場所からは黒煙が上がり、道場内に蔓延する。結界が逆に仇となり、空気は循環されずに漂う。

「……俺様が間違っていた。貴様に魔術を使うのは無理らしいな」

「ゲホッゲホッ……だから言ったじゃねえか。補助的なのは使えるからいらないって」

「だが、実戦になら今のは使えるぞ?威力も充分にあった。おかげで的も無くなっちまったしな」

誉められているのか貶されているのか、理解出来なかった。

「とりあえず練習しとけ。……もしかしたら、今ので気付かれたかも知れないからな」

新しいタバコを懐から取り出して、立ち上る煙を見ながら続ける。

「次、月華を悲しませるような事したら、その時は貴様をぶっ殺す。跡形も残らない位に消し炭にしてやる……分かったな?」

十六夜の目は、本気だ。今回は怪我も無く済んだが、次はどうなるか分からない。子を想う親心。
だが、陽はこれに対して言い放った。
力強い言葉を。

「負けない……いや、負けれないんだ」

「うむ。我等は負けぬ」

陽の瞳と白銀の一言により十六夜は黙る。それが悔しかったのか、こう言い返した。

「どうだかな!剣術しか能がない奴が魔術師に勝てんのか?バーカ!」

「なっ!?バカってなんだよバカって!くそっ、気に入らねえ!昼間の続きだ構えやがれ!」

「上等だ!行くぞ、クソガキぃ!」

結局はこうなってしまうのだ。仕方ないと言ってしまえばそれまでだが。
こうして魔術の特訓は急遽終了し、早朝まで続く容赦なき打ち合いが始まるのだった。

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