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〜龍と刀〜
魔術の極意
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陽は道場に居た。
理由は、叩き起こされたからである。

「ねむ……」

午前零時を過ぎた頃、表現ではなく本当に叩かれて起きたのだ。感触からして固形物で細い物。今日見た中で一番細い物体は、木刀だろう。木刀を持ち歩いている者といえば、十六夜。
なんでも、昼間の話の続きをしたいとか。明日じゃだめか?と聞いてみた所、もう一発叩かれる事となった。

「貴様、聞いているのか?」

「大丈夫、大丈夫。半分くらいは頭に入ったから」

あくびをしながら答える陽に、十六夜の木刀が火を噴いた。これまた表現ではない。

「目ぇ覚まさせてやろうか?いいや、いっそ永眠させてやる。二度と月華に近付けないようにな!」

「眠いんだから、大声出さないでくれ。しかも近所迷惑だ」

眠たそうな目を片手でこすりながら、もう一方の手は耳を塞ぐ。

「結界使ってんだ、聞こえる訳無いんだよ!そんな事も分かんねえのか貴様は!」

「言い方を変えよう。俺に迷惑……」

今にも眠りそうに、こくりこくりと舟を漕いでいる陽。朝と深夜は極端に弱い。特に学校が無い日は。

「話が進まん!さっきの戦いで貴様は魔術を使わなかった。つまり苦手なんだろ?なあ、そうなんだろ?」

「……別に。術式組んでる暇ねえし。補助的なのは使えるから気にしてない」

「それが問題だと言うのだ」

今まで沈黙していた白銀がようやく口を開く。
陽の使える魔術といえば、水気による攻撃補助、火気や木気による攻撃的魔術だけ。後者の二つは専ら使い物にならない程だが。白銀の召喚やその他の魔術は、式紙に頼っている。

「そこでだ!俺様が貴様に魔術の極意をぶち込んでやれとヒゲじじいに言われたんだよ!まず見てやがれ!」

木刀を乱暴に置き、拳を胸の前に。
すると、音もなく拳に炎が纏われる。その炎で新しいタバコに火を付け、一服。

「さすがだな、十六夜。魔術の発動に時間を要さないとは」

「まあな。先代とかその前の奴らは剣術だけだったらしいが、俺様は違う!」

瞬時に炎から水へ。さらに雷。前代最強の名前は伊達じゃない。

「まあいい……貴様は魔術をどう思っている?」

「腕に自信の無い奴が身に付ける……違うか?」

「違うな。根本的な部分から間違っているぞ貴様は」

投げ出した木刀を拾い直し、振り回す。そして切っ先を陽の鼻先に向ける。

「達彦のバカはなんも教えなかったな?良いか?魔術ってのは使い手のイメージしだいでどうにでも出来る。攻撃することも、防御することも……相手の息の根を止めることすらも容易い」

「イメージ……」

「貴様は出来ないんじゃねえ。やらないだけだ。魔術に対しての考えを改めてやってみろ……考えるだけで出来んだから、出来ないのなら貴様の頭が足りないだけだ」

言葉を続ける十六夜には、いつもの荒々しさは感じられない。あるのはただ、頭首としての貫禄。

「つまり、頭使えって話だ。これが俺様の魔術の極意!術式を組み上げる必要なんざ皆無!己の想像力が全てを決める!ま、貴様には無理だろうがな?達彦と一緒でバカだからな」

「うるせえよ。それと、そんな簡単な事で良いのかよ?白銀、知ってたか?」

「むう……想像力だけで魔術が使えるとは到底思えぬが、やってみる価値はあるだろう……出来るのにやらないのと、出来ないからやらないのは大違い、か。達彦の口癖だったな」

こうして、陽の魔術特訓が始まった。
半ば乗り気ではなかったが。

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あきゅろす。
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