〜龍と刀〜
パーティー
*****
家に戻ると、玄関にいくつか見慣れない靴が並べられている。
「あぁ……とてつもなく嫌な予感がする。ってか、なんで俺の後ろ歩いてたルナさん達の靴まであんだよ?」
たしかに陽の後ろを歩いていたはずなのだが。先回りされる程の道があっただろうか。
「……白銀は部屋だな。多分だけど白銀を持ち込む訳にはいかない気がする。ホントになんとなくだけど」
「うむ。この家の中にはお前を入れて八人の人の気配がある……三つは鳳親子だ。それ以外は分からぬ」
「そうだろうな。元々家に居たのは月華だけだし、ルナさんとあの人は今日来るって言ってたからな……」
白銀を自室に置き、階段を下りる。
そこで、陽はこう思った。
「……どこに行けば良いんだ?」
陽の家は武家屋敷のような造りになっており、大人数が入れる部屋がいくつかある。部屋も沢山あるが、まともに使っている場所は三、四部屋くらい。
「片っ端から開けてくのは面倒だな。仕方ないか……」
目を閉じ、耳を澄ませる。ここぞとばかりに、人間を超える聴力を駆使し、集まっているであろう部屋を探す。
勿論、小さな話し声すら聞き逃さない。
「捉えた!」
聞き取った僅かな音を頼りに突き進む。
そして、とある部屋の前に着いた。この家におけるリビング的存在の部屋。
ただ、この部屋には一つおかしな点があった。
戸に一枚の貼り紙があったのだ。
『深呼吸をしてから入りましょう』
明らかに手書き、明らかにノートのページを破り取った物。
良く言えば手作り、悪く言えば適当。
「うわぁ……絶対に入りたくない……だから深呼吸しろって事か」
貼り紙には続きがあった。
『覚悟はありますか?』
何に対して覚悟しろというのか。
「何だよ。入るなって言ってるみたいじゃねえか?……ええい!面倒だ!」
覚悟を決め、戸を開け放つ。
暗くされた部屋内、何も見えない。
「てめえら!人の家で何やってん−−」
−−パパァァン!!
だ!と言いかけた陽の耳に飛び込む銃声にも似た音。
それと鈍い痛み。
「龍神ぃ〜!」
「黙れ!近寄るな!」
「ぐはぁっ!」
即座に電気を点け、近寄って来た物体を渾身の一撃で殴り倒す。
「まったく……なんだよ、この人数?そしてこの状況は?」
自分の家のようにくつろいでいる人々を見渡す。白銀の言った通り八人だ。
銃声に似た音はクラッカーらしい。
陽の額に直撃した物は、ワインのコルク。当然、十六夜である。
転がっている物体は井上……だった物だ。
「私が説明してあげるわ」
琉奈が最初に口を開いた。
「どこから話そうかしら?ええっとね、陽君が入院してる間に月華が言ったの。起きたらパーティーをやるって」
「ちょっと、お母さん!それ言わないって約束だったのに……」
「あら、ごめんなさい。でもお料理手伝って上げたじゃない?」
顔を真っ赤にして俯く月華。陽にはその行動が理解出来ていない。
「陽君の席は真ん中よ。一番料理の取りやすい所ね」
よくよく見れば、かなり豪華な食卓だ。
和・洋・中全ての料理がテーブルに並べられていた。ちなみに、世界三大料理に和食は入っておらず、トルコ料理が入っている。
「……」
「どうしたの?」
隣に座っていた月華が、心配そうに尋ねてくる。
「ああ、ちょっと考え事だ。それと、ありがとな」
「う、うん……どういたしまして」
かあっと更に顔が朱に染まっていく月華。
「復活!」
雰囲気を壊す井上、それを制裁する陽。
それを見てみんなで大笑い。
楽しい時間というものは過ぎ去るのがとても速い。
名残惜しいが、これが現実で、陽はこの時間を守らなければならない。
いつか言われた、自分のために涙を流す人が居なくなるように。
*****
無事に陽のお帰りパーティーは終了。
十六夜は途中退席していた。
「さて、もう十時なんだよな。ここから帰れば絶対に補導されるよな」
珍しく井上がまともな意見を提案する。何か裏がありそうだ。
「変な事言ったら命は無いと思え」
言いながら指の骨を鳴らす。
「じゃあ俺が!龍神の家に泊まりたいと思う!」
「誰だか分かんないけど、ナイスな提案だぜ!」
がっしりと握手を交わす井上ともう一人の少年。
「あ、お前居たんだ?全然気付かなかった。入学式以来じゃん」
「待てよおい!その前に何度か会っただろ!それより、扱いがこの井上とかいうのよりヒドいんじゃね!?」
「ちょっ!それはそれでヒドいよキミ!」
「ああもう、うるさいな。マジで気付かなかったんだって。お前さ、影薄くなった?ってかさ、お前呼んだの月華か?」
どうやら陽と少年は知り合いらしく、親しげに話している。
「うん。飛澤君、中学校の時仲良さそうにしてたから」
「……ほぼ無理矢理だったんだがな」
頭を掻きながら月華が呼んだ少年を見る。彼は井上、中島と打ち解けたらしい。話が盛り上がっている。どうせ、他愛もない内容だとは思うが。
飛澤 壊(ヒザワ カイ)。高校は陽と同じだが、クラスが違うため滅多に会うことはなく、会話するときは大抵が久しぶり、から始まる。
「一晩泊めてください!出来ればみんな部屋は一緒で!」
三人がいきなり陽に頭を下げてくる。陽としては泊める事など造作もないが、後半の願いを聞き入れる訳にはいかない。
「ああー、お前ら三人は外だな」
「待て!それだと龍神がハーレ−−」
井上の言葉を遮るように一撃。
「陽君、泊めてあげたら?もう夜も遅いし、ね?」
琉奈の言っている事は正しい。正しいけど、部屋も足りてるけど、一緒にしてやるつもりはない。
「まあ、ルナさんがそういうなら……」
「もちろん、女性陣は別室よ?」
後ろで喚いている三人が居るが、無視しておく。
こうして、長かった一日が幕を下ろした。
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