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〜龍と刀〜
現れた者V
案内され、本殿に入るとそこには畳張りの床が広がっていた。神社仏閣のように何かが祀られている訳でもないので、見た目で言うのなら道場のようなものである。真夜中という事もあり、周囲は静寂に包まれていた。

(この時間だと流石に誰も仕事してない、のかな)

思えばこのような時間帯には陽のところにも連絡が来た試しはない。それは自分が学生であるからという事も考慮されているのかもしれないが。
そんな事を思っていると前方から何かが飛んで来る。昌吾によって投げられた物だと分かっていたので右手で掴む。座布団だ。ここに座れ、という事なのだろう。

「せっかく来てもろてあかんねんけど、もてなしは出来なくてな」

「いえ大丈夫です。新幹線で食って来たので」

「さよか。やったら、早速本題に入ろうかねぇ」

まるで試合前のように対面して座る『荒虎流』の二人と陽。そのような厳正な空気は少なく、それぞれが適当に崩して座っている状態だ。

「まず、急に呼び出してすまんなあ。ただ今回の件は是非とも自分の力を借りたいのや」

その巌のような体を腰からしっかりと曲げ、陽へと謝罪。そして協力の要請。

「そもそも長からの依頼っていうのを聞いてたんですが、あれは……」

「冗談や。まああながち嘘でもないんやけど……こうしないと来てくれなかったやろ?」

「……」

言われてみればその通りだ。どことも知らない流派から依頼があっていきなり来い、と連絡を受けようが陽はきっと動かなかっただろう。それこそ罠を警戒していたかもしれない。昌吾の悪そうな笑顔を見ると溜め息が込み上げて来るのだが、ここはグッと抑え込み続きを聞く態勢に。

「任務は簡単。交渉や」

「交渉?誰と?」

「龍族や」

「っ!?そんな話、ある訳が……!」

さらっと。昌吾の口から滑るように紡がれたのは陽の予期せぬ言葉だった。
龍族。それは自身の体に流れる血の一部であり、父親の残してくれた血であり、そしてこの世界では途絶えたはずの種族だ。そして純血の龍族は居ないとされており――

「気付いたか?純血種は居ないが、混血ならどうや?しかも別種族との混血なら。あり得ない話ではないやんな?」

「だとしても……」

頭に血が上るような感覚だ。怒りとは違う別の感情。冷静にならなくてはならない。まだそうだと決まった訳ではないのだから。

「いや……それは、確かな情報なんですか?」

「正直確かめては居ない。ただ、特徴が一致してる……どうする?」

「どうする、って」

ここまで来て断れる人間が居るのだろうか。ましてや自分と同じ血を持つモノと会えるというのなら。

「もちろんやります」

「よっしゃ!さすがやな!」

「それで、交渉っていうのは具体的に何を?」

「どうやらその何者かは土地の魔力を吸い取ってるみたいで、あんまりやり過ぎるとその内人間側にも被害出るからそれをやめて欲しいって」

先程まで黙って成り行きを見守っていた雪那が口を開く。

「通じれば、ですよねそれ?」

「そん時は、そん時。決行は明日……やないな。今日の夜。それまでは自由にしてくれてええよ」

「そうですか。分かりました。では寝ます」

「寝るんか!?ずっと!?」

別に対策を練る必要性は感じられなかった陽は、どうにか寝床を見つけて寝るつもりだったのだが雪那はその行為に驚いたらしい。確かに見た目では相当やんちゃなタイプと見て取れるが。

「せっかく来たんやし、案内するよ?」

「……眠いんすよ」

「……寝たら死ぬで」

「ないない」

寝込みを襲われるような事はこの場所に居る限りはないだろう。それに騒動があればすぐにでも起きるつもりだ。

「娘もこう言ってるんだから少し付き合ってあげないか?」

「……学校は良いんですか」

「え?うち大学出てるし、道場で働いてるから学生やないよ?少なくとも君よりは年上」

「マジですか?」

人は見かけに依らない。その言葉を実感した陽であった。


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あきゅろす。
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