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〜龍と刀〜
現れた者U
相手の姿は逆光によって正確な情報が得られない。しかし体格が良く、このような巨大な得物を振るっているという事から相当な腕力の持ち主であると窺える。
白銀の刀身で圧を受け止めているが、次第に足が玉砂利の隙間へとめり込んでいく。このままでは完全に押し切られて反撃のタイミングを失ってしまうだろう。
散る火花。思考は一瞬。腕の力を一気に抜き、同時に両足を灰色の鱗に包む。沈み込む相手の体を見送りながら、陽は大きく後退。
行き場を失った力は大きく地面へと叩き付けられ、衝撃によって砂塵が舞う。あの大きさと重さを持つ得物だ。一度深く地面に突き刺されば抜こうにも時間が掛かるはず。そう考えた陽は着地をした体勢のまま逆方向へと力を加える。影がまだ見えているという事は、そこに居るのだ。跳びながら白銀を横に構え、強く振り抜く――

「ストーップ!」

――正確には振り抜く直前だ。足が地面に触れ、刀身が空を裂き相手に迫ろうとした。土煙の漂う本殿前、突如として響いたのは若い女の声だ。どうやらこの襲撃者の仲間のようで。白銀は彼女の持つ二対の羽子板のような形状の得物に衝突し、止まる。

「師匠、もうええわな?」

「……師匠?」

その師匠と呼ばれた者が、手にした得物で邪魔な土煙を払う。感じた通りの大男。巌のような体に無骨な金属の棒。ついこの前対峙した鬼のような体系でもあるが、特有の角などが見て取れない。どうやら人間なのだろう。そしてもう一人。彼を師匠と呼んだのは、髪は肩より上で短く切り揃え、黒を基調とし黄色いラインがよく映えるジャージを身に付けた少年のような少女。年齢で言うのなら陽と同じくらいだろうか。両手に携えているのは陽の知識にはない物だ。なので鉄製羽子板である、と認識。きっと間違いなのだろうが。

「おう、ちっとやり過ぎたかもしれへんなあ」

大きく穿った地面を隠そうと周りから玉砂利を足で集めているのだが、当然足りない。諦めて豪快に笑い飛ばす男。
何が起こっているのか理解出来ていない陽。敵ではないようなので戦闘態勢は解除。

「……」

「そないな目で見るなや。別に取って食おうっちゅう訳とちゃうんやから。俺は『荒虎流(コウコリュウ)』頭首、荒城昌吾(アラキショウゴ)。で、これが娘で一番弟子の雪那(ユキナ)だ」

「よろしゅうなー」

先程の荒々しい雰囲気はどこへやったのか。和やかな空気を醸し出して陽へと握手を求める昌吾という男。その空気に呑まれ空いている左手を差し出してしまう。

「どうなってるんです……?」

「あーそれはちゃんと説明するで。ほな、行こか」

「どこに?」

昌吾が指差したのは本殿だ。訳も分からず陽はその後を追おうと、まずは投げ捨てた荷物を探す。

「ええよ、うちが持っていくから」

するとその荷物を雪那が肩に乗せて持っていこうとするではないか。ありがたいが、自分で持つものではないかと思った陽はすかさず声を掛ける。

「いやそれは悪い……」

「大丈夫、鍛えてるからね」

「そういう問題じゃないと思うんだけどなぁ……」

しかしその陽の言葉は耳に入らなかったのか、雪那は陽の荷物を抱えて昌吾の背中を追ってしまった。一人残された陽は嵐のように過ぎ去った出来事にしばし呆然と立ち尽くす。

「……どうなってるんだよこれ」

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