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〜龍と刀〜
何処へ?
*****


――翌朝。月華はいつものように日課を果たしに『剣凰流』屋敷へと足を運んでいた。わざわざ朝食を作り、甲斐甲斐しく寝坊する人間を起こそうというのだ。かれこれ数年この仕事を続けているが、一向に寝坊が改善しない男が居るらしい。
そんな月華が慣れた身のこなしで陽が寝ているであろう布団を剥ぎ取ると同時、何が起きたのか分からないといった様子で目を丸くする、それから数秒遅れて行動に。
階段を慌てて駆け降り、とある部屋へ。経緯を一切聞いていないのだが、いつの間にか居候する事になっていた紗姫の部屋だ。和風の部屋を自分好みに改造した女の子らしい部屋。

「紗姫ちゃん!起きて!」

「……ん、なに?もう朝なの……?」

「わっ、尻尾だ……触っても良い?」

「痛くしないでね」

「ありがと!」

もうすっかりこのようなものを見慣れてしまった月華は何の躊躇いもなく、紗姫の腰の辺りから見えている金色の尻尾へと手を伸ばして――

「じゃなかった……!ちょっと来て!」

「え、なに!?」

どうやら彼女も朝は弱いらしく、開ききっていない瞼を擦りながら立ち上がる。大きめのシャツ一枚というとても無防備な恰好だ。
そんな薄着で危なっかしい紗姫の腕を掴み、引っ張る月華。

「ここ龍神君の部屋よね……その、この恰好じゃちょっと……」

部屋の前に連れて来られてようやく思考が活性化。自分のこの服装を見られてしまうのは恥ずかしい、たとえ相手の寝起きが酷くてもだ。
しかし月華はそんな事お構いなしに紗姫を部屋の中へと引きずり込む。

「これ、なんだと思う?」

月華の背中に隠れるようにして頭を覗かせた紗姫。その視線の向こうにあったのは、意外な姿だった。

「……木偶ね」

「何に使うの?」

「んと、良く龍神君なんかはこれ相手に本気で打ち込んだりしてるわね」

辺りを見渡し、確実に陽が居ないと認識した紗姫はようやく月華の隣に。

「そうなんだ……でも、何でここにあるんだろう……どこ行ったのかな……?」

「心配はしなくても大丈夫そうだけど……」

木偶を用意して偽装していたという事は、少なくとも自分から何処かへと移動したという事だ。連れ去られたという線はないだろう。
月華は何かないか、と部屋を物色していると普段ほとんど使われていない机の上に紙が置かれている事に気が付く。

「[何日か居なくなります。連絡はなるべく取れるようにしておくけど出れなかったらごめんなさい]……」

「良く読めたわね……」

「うーん……陽ちゃんの字って特徴的だけど汚いっていう訳でもないから読めない事はないよ」

「……付き合いの差、か……」

月華の言うように汚い訳ではないが、どこか読み辛い字。人によってはこれを汚いという言うのかもしれないが。そしてこれは置手紙。どうにか陽が無事である、というのは確認出来た。あとは何処に居るのかだ。
早速携帯電話を取り出して陽に連絡を取ろうとするが。

「うぅ……圏外って言われた……」

返って来たのは自動音声案内だ。どうやら陽は電波の届かない場所に居るようだった。早速置手紙の内容から外れているではないか。

「よしよし……気になるけど今は学校行かなきゃ、ね?」

「うん……あ、でも陽ちゃん学校どうするつもりなんだろう?」

「それは……来ないんじゃないかしら?」


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あきゅろす。
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