〜龍と刀〜
ぬくもりX
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陽が戻ったのは井上の部屋である。食事を終え、それからこの部屋に来て一緒にゲームをやる事となったのだ。どうやら一人だと完全に網羅出来ない部分があるとか。
「お、早かったなー」
「お前さ。説明は的確にしてくれよな……」
「何の話?」
トイレを借りようと思い場所を聞いたのだが、その頃井上は画面に夢中。適当に聞き取れた単語を頭の中で並べ替えた結果、まさか風呂場に出てしまった、などとは言えない。そこで裸の妹と遭遇したなどとはもっと言えないだろう。戦闘時に出るような、まるで龍化した時のような速度で戸を閉め逃げて来たが。しかし事細かに説明してやる義理も無いだろう。
「いや……何でもねえよ……」
だからこそ適当に流して――とも思ったのだが、陽も男子である。さすがに気にしてしまう。そもそもこれは適当に扱って良い問題だったのか。この後どういう顔をして会えば良いのか。それを振り切るために取った行動とは。
「で、俺はこれをどうすれば良いんだ?」
持ち出したのは据え置き型ゲーム機のコントローラー。井上に頼まれたのはこれの手伝いである。別の事で頭を使う。これが今出来る事だ。他にもあるが、それは今じゃない。
「やった事ある?」
「無い」
「そうだよなぁ……とりあえず操作だけ覚えてもらって、それからモンスターを殲滅する!一人でも出来れば苦労しないんだけどさー数が多くて間に合わないんだよ」
「そういうもんか?」
テレビの画面にはこのゲームのオープニング映像が流されており、そこから察するにプレイヤーとなって巨大なモンスターと戦っていくものらしい。
陽は普段ゲーム自体をほとんどやらないのだ。やるとしても携帯で軽く暇潰し程度。そこまで深くやらない人間だ。だからなのか、正直なところ結構楽しみだったりするのだろう。平静を装っているが、どことなく雰囲気が違う。普段家庭内ではゲームを禁止されている子供が、友人の家でやると嵌ってしまうように。
「龍神ってほんとゲームやらないよなー。何で?」
「何でって言われてもな……特に昔からやってなかったからやる必要が無かったし、時間ねえし」
「俺なんて毎日やってんのに」
「お前は時間ありすぎるんだよ」
コントローラーのケーブルが届くギリギリでベッドに寝転がりながら操作する井上。さすがは毎日やっているプレイヤー。慣れた手つきで画面を変えていく。
「ちょっと待ってなーこれ同時プレイどうやってやるんだっけな……」
待ってろとの事なのでコントローラーを置き、部屋の中を見渡す。そこまで広いという訳でも無いので物は最低限なのだろう。漫画を詰め込むだけ詰め込んだ本棚、ベッド、テレビ。そして壁に掛けてあるのはアニメか何かのポスターだったりバスケットボールの選手だったりと趣味が全開になったこの部屋。井上らしい部屋だろう。しかし、陽は気付いてしまった。ここに無い物を。
「なあ一つ聞いて良いか?」
「んー?」
ゲームの設定に戸惑っている井上に質問を投げ掛けると、返ってきたのはやはり適当な返事。
「この部屋机とか無いじゃん。お前どこで勉強してんの?」
「もしやるとしたらベッドか床だな」
「マジか……」
「おう。下敷き敷いとけば意外と大丈夫だぜ?やらないけどな!」
そういう問題ではないだろう、と声を大にして言いたいところだったが陽自身も机はあるがほとんど勉強には使っていないので言えた義理ではない。
「よっしゃあ出来たぜ!これで二人分キャラが表示される!」
まるで勉強などする必要が無いとでも言いたげだ。
「これで今日中にミッションが全部クリア出来る……!」
「ふーん……どのくらいあんの?」
「んー……二人専用とかやってないから頑張れば明け方には終わる!はず!」
「は?」
現在時刻を確認すると夜八時過ぎ。井上の言う通りでもこれから四時間程度はやるらしい。学校で寝ている理由が何となく分かった気がする陽。しかし、自身も寝ているため追究しない。
「さーやるぜー!」
「ちょっと待てよ寝ないのか?」
「今夜はオールナイトォ!」
「ふざけんなよお前……!俺は寝るからな!」
画面にはゲームの操作方法が表示される。それを押してしまえば徹夜が始まってしまう。だが、たまには良いのかも知れない、と思っていた。
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