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〜龍と刀〜
ぬくもりW
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食事を終え、葵は風呂場へと向かった。兄の友人が来ているのだ。早く入って綺麗になっておきたい。これからどんな事が起こるかわからないのだから、と兄張りの思考回路を発動させる中学二年生。
葵が陽と出会ったのはかれこれ一年程前だ。同じ中学校の先輩で、兄と一緒に居たのを見かけて、一目惚れをした。今とはまた違って少々雰囲気が尖っていた感じが好みだったと言う。そして兄が連れて来た際に話してみると意外にも優しい。そこで好感度が上がったが、それ以来ほとんどこの家には遊びに来なくなってしまった。
服を脱ぎ捨て、危うくいつものように適当に洗濯機に入れるところだったが、慌てて畳んで入れる。雑な子だと思われたくないかららしい。

「はぁ……どうしよう、何かあったら……」

湯船に浸かると多かったお湯が一気に零れていく。湯気の中、そこにどうやら妄想世界を描いていくようだ。彼女には今、現実ではないものが見えている。

「えへ……陽さーん……ダメですよー」

この妄想癖、一体誰から譲り受けたのだろうか。そればかりが疑問であるが、彼女自身は特に気にも留めていないようだ。さすがは妹、と言っても良いのだろうか。この世界に入り込むだけで長風呂出来る、と葵は友人に自慢する。

「はっ!またやってしまった……今日は本人が居るのに……!」

湯船から上がり、シャワーを浴びた。いつもより勢いは強めだ。こうする事で妄想の世界に入ってしまうのを防いでいるのか。しかし、頭にはどうしても陽の事を浮かべてしまう。話した機会はかなり少ないのだが、先程の夕飯で多少近付けた気がしている。鏡に映る自分の体に目が行く。

「陽さんは……どっちが良いんだろう?大きいのが良いのかなー?」

胸の話である。先程兄に言われて反論した事だが、同級生と比べたら確かに大きい方だと思う。しかしそれがどう思われているのか。かと言って面と向かって聞けるものでもなく。

「あ、でも陽さんならこう言ってくれるはず!君のならどんなでも、って……さっすがだよー!」

基本的にこの家系の人間は後ろ向きに物事を考えないらしく、常に前向きな思考回路を使用している。良い事なのだが、心配だ。
テンションが上がってきたので鼻歌混じりに素早く体を洗い、泡を流す。早く出て、少しでも話をしてみたい。その気持ちが強くなる。

「今日はー……ラッキーデー!」

大声が反響。気持ち良く響いたところで戸を開け放ち、流れる動作でバスタオルで体を包む。そこで日課になっているある物を取り出した。形は正方形に近いだろうか。色はホワイト。上部には液晶が取り付けられているそれは、所謂体重計である。女子たるもの体重管理は重要である、と友人に言われてからやるようにしているのだ。

「増えてる……?で、でもさっき食べたばっかりだから大丈夫!うん、大丈夫なの!」

理由を付けて自己を正当化する。ほんの少しの増量ならなるべく気にしないようにしているのだ。細かくやっていられるような性格ではないのは自分で分かっている。しかし、気になるものは気になる。タオルを外し、摘まんでみた。

「痛い……」

当然である。溜め息を吐いて下着を持ち上げようとした時だった。ほんの少し冷気が入り、何事かと顔を上げる。硬直と静寂。何とそこには――

「大丈夫だまだ何も見えていないだからごめん間違った!」

陽が立っていたのだが、さすがと言うべきか物凄い速度で間違いに気付き勢い良く戸を閉めていった。嵐のように過ぎ去った数秒の出来事。遅れて理解する。ああは言っていたが、少なからず見られてしまったのだ。顔が本当に真っ赤になる、とはこの感覚を言うのだろう。

「ど、どうしよう……!顔合わせらんないよ……!でももしかしたらこのお陰で進展が……!」

素っ裸で葵は握り拳を作ってガッツポーズ。このポジティブさは見習いたいものだ。


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あきゅろす。
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