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〜龍と刀〜
ぬくもりT
井上の家までは駅から約十分程度。駅が近く、周りには様々な店舗が立ち並んでいるため利便性は高い。だが学校に通うとしては少々遠い方だ。
陽は帰宅者の人波を掻い潜り、通ったばかりの道を引き返しながら井上の住むマンションへ目指していたのだが、ふと立ち止まると首を傾げている。

(あれ……あいつ何階に住んでるんだっけ……?)

マンションの場所はまだ頭にある。しかしどの階のどの部屋に住んでいたのかが思い出せないのだ。記憶に依れば八階建て。その内いくつ部屋があるのか。聞くのは癪だがここはどうしようもない。
そして携帯を操作しつつ歩いていると、目的地へ到着。

「……間違ったか?」

陽の記憶違いだろうか。今目の前に聳え立っているのは所謂高級志向の建造物。自動ドアの向こうには呼び出しの機械が見えている。まるでホテルのように煌びやかで、到底井上が住んでいる場所のようには思えない。だがしかし、陽の記憶は確実にここだと言っている。そもそもこの辺りのマンションはこの一棟くらいだ。まさかと思いつつ井上に電話を掛ける。

[もっしー]

「なあお前んとこのマンションってこんなに黒かったっけ?俺間違ってんの?」

[あーそれな。言ってなかったっけ?……あ、言ったよ結構前に!聞いてなかったのか!]

「悪いお前の話は大体聞いてないわ」

衝撃的な発言にショックを受ける井上。どうやら言葉が出ないらしい。一応ある程度は聞いてやっているのだからそこは喜んで欲しい、と陽は思っている。

[まあ良いや……そこで合ってるから、入って、何かアレあるじゃん?それを七○一って押してくれれば俺が――良いって!俺が出るから!]

唐突に電話を切るのが流行っているのだろうか。二度目である。相変わらず後ろが騒がしい、と思いつつも言葉通りに中に入り機械の前へ。この手の機械は初めて触るが、あの説明通りならこれで合っているはず。数秒の呼び出し音の後、機械から再び井上の声。

[でな?自動ドアの向こう側のエレベーターがあるじゃん?それ故障中だから階段で行かなきゃいけないんだよ]

「先に言えよ。面倒だな……」

[朝は使えたんだぜ?俺だってさっきはあの熊背負ってったんだから我慢しろよー]

「あーそういや熊があったのか……。分かった七○一だな?すぐ行くと思う」

通話が終了すると自動ドアが開き、陽は辺りを見回す。数台の監視カメラが来客を見ていたり、観葉植物が飾られていたり、謎の像が置かれていたりとやはり以前来た時とは全て様変わりしている。しかもエレベーターの扉には故障中の張り紙。小さく非常階段をお使いください、と注意書き。非常階段はその奥らしい。明るく、暖房の効いたエントランスを抜けると冷気がやって来る。外は駐車場になっているらしい。見上げると、それ程でもないが長めの階段。ここを七階まで上がらなくてはならない。足を動かす。

「七階か……結構良いとこ住んでるじゃねえか」

最上階では無いが、上階は家賃が高いはずだ。しかも庶民派とは思えない高級感が漂っているこのマンション。井上の家庭もそれなりに凄いところなのではないかと思ってしまう。

「なのにあれか……残念過ぎるな……」

陽自身も『剣凰流』の屋敷を満遍なく使えている訳ではないし、自分には勿体無い広さだと考えている。それに加えて何度も破壊と再生を繰り返した。代々使っていた人間には申し訳無いとすら思っているのだ。その中に謙蔵は含まれていないようだが。
考え事は尽きないが、いつの間にか七階まで来ていたようだ。危うく通り過ぎるところだった陽は非常扉と思しきドアを押す。するとやはり廊下も隅々まで綺麗にされ、扉も黒と金で装飾されたものになっている。このマンションに一体何があったのか。後でもう一度聞いてみようと思った陽であった。

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