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〜龍と刀〜
帰路、そして――U
久々に騒がしくもゆっくりとした休日を過ごせたような気がしていた。ここ最近は学校が休みでもずっと道場に篭って鍛錬していたり頭首代理としての職務をしていたりと心身ともに休まる事が少なかったのだ。今日は白銀にも休んだらどうだ、と言われその通りに実行した。根を詰めるのは良くないと自分自身分かっていたはずなのに。過剰なまでに追い込んでいた部分もあるのかもしれない。
幾度の戦闘を経ても一向に進む気配のない問題。こちらはいつも後手に回ってしまい、それから対応をしている。この事態もどうにか改善していかなければならない。

「はぁ……」

どうしても一人になるとその事ばかりが頭に過ってしまう。特に、『剣凰流』の屋敷の近辺は閑静な住宅街だ。考え事をするのには適した環境と言えるだろう。せっかくの休みもこれでは台無しだ。
門が見えかかった頃、何か、得体の知れない気配を感じる。視線、とも言えるだろう。たとえ休日を過ごしていたとあってもそこまで感覚は鈍っていない。
立ち止まって辺りを見渡すが、特にこれと言った変貌はない。気のせい、では無いのだろうが異変が無いのなら一旦その場を離れるのが良いだろう。ここで戦闘が始まってしまうよりも、被害を抑えられる。ポケットには常に白銀を喚ぶための式紙も忍ばせているのだ。万が一でも対応は可能。警戒しながら屋敷に向けて足を動かした瞬間だった。側頭部に痛みとは言えないまでも軽い衝撃。ボールが近くから優しく投げられた程度。しかしこれで確信する。自身が狙われている、と。
その事に勘付かれたのか不可視の襲撃が始まる。小さな衝撃が連続して陽の体に吸い込まれていく。当たると地味に痛いが耐えられないレベルではない。だから走って門の前まで接近し、体当たりで開け、隙間から侵入。転がるように庭を進もうとするが、謎の攻撃はその間も続く。

「あーもう!何なんだよ鬱陶しい!」

精神的なダメージを狙っているのかとも考えられるが、そんな事は後回しだ。ポケットから白銀召喚用の式紙を勢い良く取り出して魔力を流す。

「なに……!?」

普段通りならば魔法陣が展開し、そこから柄が取り出せるようになるのだが、陽が魔力を流した途端、燃え上がって灰に変わってしまったのだ。驚いている陽にはお構いなく謎の攻撃が加えられる。苛立ちを隠せずにもう一枚取り出し、同じように魔力を流そうとした。しかし――

「ふはははは!どうやら困っているようだなあ!」

――突如として降り注いだのは男の声だ。しわがれているが、腹の底に響くようなとても力強いその声を、陽は知っている。もうずっと聞いていなかったような気もするその声の主は、どうやら屋根に登っていたようだ。月明かりを背後に、陽を見下ろしている。

「何しに来た……!」

「とお!」

掛け声こそ適当だったが、屋根の高さから飛び降りて着地。

「喝ッ――!」

ただの声。そのはずだ。その空気すら振動させる一喝で、陽に纏わり付いていた何かを引き剥がしたらしい。そして陽の目の前に立ち、ニヤリと笑うこの男。
老人だ。年齢を感じさせないようにしているのか、その白髪は逆立たせているのが特徴的。そして何よりも和服から飛び出している両腕には無数の傷と盛り上がる筋肉。一目で分かる。只の老人ではない、と。

「戻ってきて早速じゃが、陽。ここから出て行って貰えぬか?」

「……はあ?」

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