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〜龍と刀〜
十二月第一週の休日Y
熊にしか見えない井上を引き連れて階段を上る。三階には飲食店が並んでいるようだ。高そうな店も見受けられるが、このメンバーではそんな場所には入っていけない。陽一人なら問題無いかもしれないが、特に井上である。

「やっぱ人多いよな。まだ昼時だし俺らみたいに時間ずらして入ろうとするのも居る訳だもんな」

「でもそんなに待ち時間とか無さそうだから良いんじゃない?」

「もうこれ置けるならどこでも良いんだけど……」

「そんなに歩いてないだろ?頑張れよ熊男」

言いながら陽たっての希望でファミレスの中へ。やはり名前を書くボードには数グループの先客。しかしそれでも片手の指で足りる程度だ。すぐに案内されるだろう。しかし困った事に待ちの椅子が無い。つまり井上は熊のままでいなければならないのだ。

「やっぱり親子連れとか多いね」

「そういう時間だから仕方ないか」

「なあこれ置いていい?」

「は?汚れるだろ。やめておけよ」

意外とそういうのには厳しい陽。しかも他人の迷惑にならないようにとも考えているのだ。周囲への配慮は完璧だろう。しかしここで井上には疑問が浮かぶ。配慮されているのは自分以外ではないのだろうか、と。

「ねえ俺は!?」

「唐突過ぎて何の話かわからないんだけど……」

「お前は熊男だよ」

「違う!」

騒いでいる間にも前の組が案内されているのでようやく空きが出来た。しかしすぐに座る必要もないだろうと判断。何故なら四人掛けの席の客が次第に減っているのを確認しているからだ。片付けが終わればすぐに呼ばれるだろう。

「どうせあと少しだろうから――」

ふと、陽が声を掛けようとすると何やら視線を感じた。その気配はどうやら下方だ。首を傾げながら下を向く。そこには小さな女の子。その小さな瞳に映っているのは彼女よりも大きいと思われる熊のぬいぐるみだ。

「ねえねえクマさんなの?」

好奇心いっぱいの声で陽のジーパンを引っ張りながら聞いてきた。陽としては子供は苦手だが、ここは頑張ってみようと決心。上から声を投げるのではなく、目線を合わせるのが大切だ――月華に聞いたものの受け売りだが――。

「そうだぞー。この熊、何て言ったって宙返りが出来るんだぞー。な?」

「いや無理だから!ってか熊じゃねえ!」

「クマさんじゃないの?」

「……く、熊さんだよぉ」

陽の無言の圧力に屈服し、ぬいぐるみの手足を動かして幼女を楽しませてやる事に。しかしやらせた本人である陽と、見ている中島は笑いを堪えているではないか。
幼女は楽しそうにぬいぐるみと握手したり顔を撫でたりしている。これはこれで良い光景ではあるが、やはりこの熊が井上である事が少々の危険を孕んでいる訳で。

「じゃあどこに遊びに行いきたい?」

「ゆうえんち!」

「よーし!お兄さんどこにでも連れて行くよお!」

「やめろよマジで捕まるぞお前……」

誘拐犯になってしまいそうなのを未然に防ぎ、ここである事に気付く。どうしてこの子は一人でいるのだろう、と。

「はぐれたのか?」

「うーん……でも自動ドアは開いた気配なかったよね」

「となるとこの中か?その方が楽といえば楽なんだけどな」

「そうだね。相手は井上に任せて」

「いやそれはそれでマズイだろ」

いつ連れ去ってしまうのか分からないのだ。だから一時たりとも目を離せない。そしてこの店内だとするのなら、きっと今頃探し回っているはずだ。
そうこうしていると陽たちも席に案内される事に。ぬいぐるみのお陰で店内からは出す事とはならない。

「あの、すみません!」

後方から女性の声。どうやら幼女を向かえに来たようだ。一安心して振り向くと、そこには見知った顔が立っていた。

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