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〜龍と刀〜
近場での事件
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『――今日未明、蓮乃市の住宅街にて殺傷事件がありました。被害者は警察発表によると五名――』

 珍しく早くに目が覚めた陽はテレビを見ながら朝食に手を付けていた。学校という監獄に向けて時間が動き出している事に大きな嫌悪感を抱きながら。

「……」

「ねえ陽ちゃん! ここって、かなり近い場所じゃないかな!? というより、すぐそこじゃ……」

「さすがに冗談キツイな」

 画面に映る風景を指差しながら悲鳴にも似た驚きの声を挙げる月華。手にしたパンを取り落としそうになるのも無理は無いだろう。何せその場所というのはここから歩いてもそれ程時間の掛からない、目と鼻の距離。幸いにも月華の家とは正反対の為に、この騒ぎには気付かなかったのだろう。

『襲われたと思われるのはいずれも若い男性で、暴力団関係者ではないかと警察は慎重に調査を進めています』

「……まったく面白くねえな。さっさと行こうぜ? 行きたくはないけど」

 食器を手早く片付け、歯を磨いて顔を洗って、いつもと同じように支度を済ませる。
出がけに肩に乗せるのはいつものように授業道具など入っていない超軽量鞄だ。全て机の中に詰め込んでいるので忘れ物などした事がない。
 爪先を蹴るように靴を履き、月華共々外へ。すると案の定、警察関係の人間やテレビ局の人間、野次馬等々でごった返していた。
通勤、通学の時間帯だというのに立ち止まってまで見る必要があるのだろうかと疑問を抱きながら現場を横目で流しながら歩いていく。
すると、月華は陽の体に隠れるように並ぶではないか。思ってもいないが、つい自然と口が動いてしまう。

「……あんまり一人で出歩くなよ」

「え? ……心配、してくれてるの?」

 上目遣いで様子を窺う月華。その表情からは、恐怖を垣間見る事が出来る。当然だろう。陽の反応の方が異常であるのかもしれない。

「さてどうなんかね……頼っても構わないとは思うけどな。でも逃げ帰るんなら俺の家より自分の家の方が良いと思うぞ? あっちは人居る事の方が多いんだしなー」

 本音は隠し、一部だけを言葉にした。たとえ気休めだとしても、この一言は月華の心には大分響いたようで。

「ぁ、ありがと……」

 顔を真っ赤にして俯く。
陽には何故こうなったのか分かっていない。だから、こう聞いた。デリカシーのデの字も理解していないからである。

「どうした? 熱でもあるのか?」

 彼は鈍いのだ。悲しい事に。自分がどれだけに恥ずかしい事を言ってしまったのかも気付く訳が無い。これもまた、当たり前の事を言っただけなのだ、とそう片付けてしまう。

「な、なんでもないよ! なんでも! 遅刻しちゃうから、先行くね!」

 スカートを翻して脱兎の如く走り去ってしまった。勿論、陽には理由が分からない。

「遅刻って……まだ余裕じゃねえか。どうしたんだあいつは?」

「よっ龍神! 今日は珍し――」

 背後からの声の主を裏拳で一撃粉砕。
振り返るとトナカイの如く鼻を赤くした井上が、道路で寝ていた。これも、ワカラナイ。

「おはよう龍神。今日も暑いね」

「ああ、まったくだ。早く夏服に替えろってんだよ……、一人か?」

「途中まで井上が居たみたいだけど、知らない内にどっか行ったみたい」

 寝そべる半死体を完全に無視して進む二人。
その頃、道行く人々の邪魔になっている半死体は、まるでゾンビのようにむくりと立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。

「待ってくれぇぇ……!」

「中島……ハンドガンとか持ってないか? もしくはナイフでも良い」

「どっちもないけど、美術で使う彫刻刀ならあると思う」

 カバンの中身を引っ掻き回しているが、一向にアイテムが出てくる気配は無い。

「倉庫に忘れて来たっぽい……」

「チッ……仕方ないな」

 そろそろ逃げ時だな、と中島と確認し合って逃げる事にした。もとい置いていく事に。

「グウゥゥ……待てぇぇ、ティッシュを貸してくれよぉ」

 鼻を抑えながら歩くその様はまさにゾンビそのもの。なかなかの演技力だ。

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あきゅろす。
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