〜龍と刀〜
休息の時X
そして組まれた拳を袈裟斬りの要領で打ち下ろす。
腕二本で衝撃に耐えきれなかった幸輔は後退しながらも満足そうだ。今の動きが余程良く見えたのだろうか。
「……先輩が体術で来るなら、俺はって考えたら体が動いたんですよ。俺には剣の動きがあるじゃねえかって」
どこか誇らしげに言う陽の目は反撃の一手を掴んだからか、輝いて見えた。
「リーチも威力も全く違うのにね〜?その思い付きは凄く良いと思うよ」
こればかりは褒めるしかない幸輔。戦闘に関しての閃きはやはり素晴らしいと、純粋にそう感じたのだ。
「でもリーチはやっぱり難しいもんですね……持ってるのと持ってないのじゃ全く違いますし」
「そりゃあね〜。同じだったら怖いじゃないか〜?」
「確かに……とりあえずこの動きを混ぜつつ、残り少ない時間をやらせてもらいますよ!」
再びの激突。
それを片隅で観戦している二人の状況はと言えば−−
「ほんっとあの二人は良く動くわね……体力が尽きるっていう言葉は無いのかしら?」
「でも何だかスゴい楽しそうにやってるよね!きっと体を動かすのが好きなんだよっ」
「好きだとしても……ま、常軌を逸したバトルを映画以外でも見れるのは良いかもね」
自身も常軌を逸した行動を出来る側に居るはずなのにそんな呑気な事を言う紗姫とは対照的に、食い入るように戦闘中の二人を見ている月華。どうやらそれぞれがそれぞれで楽しんでいるようだ。
そんな事を知ってか知らずか、陽と幸輔は何度目か分からない攻防を繰り返す。
懐に潜り込み、股の間に右足を滑らせ、体を捻り、腰溜めに拳を据える。得意な抜刀の構えを得物無しで行うためにはここまで接近する必要があったのだ。当たるかどうかは速度次第だろう。
「さっきから、だいぶ乗ってるね〜」
「でもダメージが通ってる気がしないのは気のせいですか……?」
「さすがに全部まともに入れられると痛いじゃない〜?頑張って反らしてやってるんだよ〜」
迫ってきた腕を、器用に上体を反らして避けて反撃。爆転の要領で回転しながら顔面スレスレの蹴りを放ちつつ距離を取る。離れたと思えば床を音が出る程強く踏み、急接近。陽の側面から何度か掌打を入れる。軽いものでも回数を重ねて行けば確実にダメージへ繋がるのだ。
ここが陽と幸輔の戦い方の決定的な違いと言えるだろう。
一撃の重さに賭けるのか、着実性を狙っていくのか……。流派の信念の違いは最もだろうが、二人の性格が前面に出てるとも言える。
だからこそ−−
「体感的にはもうちょっとで終わりだけど……どうしようか〜?」
「もちろん、時間切れになるまでが勝負に決まってるじゃないですか」
「あはは〜。言うと思ったよ〜」
−−こうも生き生きとやっていられるのだろう。
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