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〜龍と刀〜
休息の時V
*****


夕飯を食べ終えた二人は予定通り、敷地内にある道場の方へ。まともに掃除している訳ではないが、ここは相変わらず綺麗だ。

「んじゃあ適当に始めちゃおうか〜?」

「ですね。終わり方は……」

「体力切れとかは勘弁だよ〜。デスマッチじゃあるまいし、徒手だし時間制で良いんじゃないかい?ほら学校とかあるしさ、長引かせるのはね〜」

「俺は別に遅刻でも休んでも気にしませんが……先輩が言うなら。じゃあ月華、携帯頼むわ」

陽はポケットにあった携帯電話を月華に手渡すと道場の中央へ。
そのやり取りをつまらなそうに見ていた紗姫がぼそりと呟いた。

「よくもまあ、あんな事があってすぐなのに体を痛めつけようだなんて気が起こるものよねぇ」

「元気なのは良いことだよっ」

「元気、ね……私なら絶対やりたくないけど……」

「んと、そこは男の子だからとか?」

月華と紗姫も二人の手合わせを観戦するためにやって来たのだが、どうも紗姫は余り乗り気ではないみたいだ。

「あ〜観客のお二人さん、ボクらかなりここを駆け回るつもりだから気を付けて〜」

「こんな隅でも危ないんですか?」

「いや配慮はするぞ?するけど巻き込む可能性はゼロじゃないって感じだ」

「ちょっとそれどや顔で言う話……?」

少し怯えたような慌てたような視線と怪訝な視線が突き刺さり、陽は少し考える。
結論を即座に導き出したのは幸輔だが。

「とりあえずこれ持っててくれるかな?」

いきなり懐から取り出したのは正方形の小さな白紙。
それを受け取った月華はひっくり返したり透かしてみたりと、不思議そうに紙と向き合っていた。

「そいつはボクが持ち歩いてる簡易結界だよ〜。裏で仕入れたから値は張るけど強度と範囲はバッチリ、保証しちゃうよ。月詠さんのアレ程じゃないけど〜」

「あ、ありがとうございます……?」

「発動条件はボクが近くに居ること。だから終わったら返してもらうからね〜」

ひらひらと手を振って幸輔はやっと陽と対局するために中央に向かって歩き出す。

「何だか準備に少し手間取ってしまいましたが……やりますか」

「ちょい待ち〜。龍神にはこいつを渡してしんぜよ〜」

再び懐から紙を。今度は赤い折り紙のような物だ。

「肉体強化ってやっぱり差が出ちゃうじゃない?だから同程度の魔力に抑えられる式さ〜」

「同じレベルでってことですか」

「まぁ基礎身体能力に関しては龍神のが上なのは承知だから、ボクの身の安全を確保するため〜」

親指を立てる幸輔。お互いのやりすぎを防ぐために、どうやら保険を掛けておくみたいだ。

「分かりました。それじゃ今度こそ……」

両拳を胸の前で構え、右足を前に。ボクシングのファイティングポーズに近い格好で陽は構えを取る。

「まったくそんなにやりたかったのか〜」

対する幸輔は相変わらずゆったりと、体を慣らすためか何度かその場で跳ねるが構えを取ったりはしない。
隅で見守る月華と紗姫は、対峙する二人の性格と気の持ち方が見て取れるような気がした。
そして−−静寂と喧騒がほぼ同時にやって来た。

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