〜龍と刀〜
夢の中U
先程の森からほんの少し歩いたところに目的地はあった。
「ここだろうな、多分……」
青年が目を細めたその視線の向こうにあるのはそこそこ大きな町。市壁の奥に広がるのは、所狭しと並んでいる建物。一番大きいのはきっと領主か貴族の物だろう。
「近年炭鉱が盛んな町、ジュネイだ。ここも昔に比べて広くなったもんだ」
「来た事があるのですか?」
「まあ、何度かね。今俺たちが抱えている問題はどうやって検問を潜るか、だ」
「私は別に上を飛んで行けますが」
抱えている問題は、自分にだけだったみたいだ。
眼下に見えるのは市壁の前で列を成して検問を受けている行商人やらの旅に生きる者たち。余程の事が無ければ、追い返されるような心配はいらない。
「さてさて、どうしたものか」
「……蹴散らして−−」
「それはダメだ。人間にも危害を加えるつもりはないからな……あくまで平和的解決方法を探そう」
その場に座り込み、下を往く行商人の列と検問を行っている兵士とを交互に見る。
「何か良い方法は見つかりましたか?」
「待て、今考え始めたばかりでそれを聞くのか」
「主のようなお方なら考える事など瞬く間に終わらせてくれるのかと思っていたので」
「そんな馬鹿な事があり得ると思うかの?まともに学問すらやっていない俺がさ」
皮肉めいた事を言うアスラだったが、本人がそう思っているのならその考えを改めてもらう必要があった。
「そんな簡単に思い付いてしまったら、そいつは奇跡だな。まあ、閃きと直感と運で生きてるようなもんだけどな」
「しかし他に対する慈愛の深さは別格だと思われますが」
「さあてね。分からんよ……ん?」
青年の目に付いた物は、先程から視線を外さなかった行商人の列。その中で一際目立つ濃い緑色の帽子。
「物は試しか……アスラ、あの帽子を被ったやつ、見えるな?」
「それはもちろん」
「よし。あいつの顔を見て来てくれないか?ちょっと心当たりがあるんだ」
それを指差し、向かうように指示。自身の言っていた通り、これは閃きと直感だった。
「見て来るだけですか?」
「そうだな……あとは顔の特徴を教えてくれると助かる。例えば、頬に大きな傷があるとかな」
妙に限定された帽子の人の特徴。ここから推測出来るのは、その人物は青年の知り合いという事。
それの確認のためにアスラを仕向けるのだろう。
「ほら、俺が行って間違ってたら面倒だろ?それよりだったらすぐに戻って来れるアスラの方が効率が良い、と」
それが適任の役割なのだとでも言いたげな表情で腰を草むらに下ろす。古びた剣も隣に投げ捨てた。存外な扱いである。
「分かりました。顔の特徴を把握して来ればよろしいのですね?では、行って参ります」
漆黒の翼を大きくはためかせ、アスラは目的の人物の元へと飛翔。
その間に青年はほんの少しの休憩を楽しむ事にした。
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