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〜龍と刀〜
平和な時間Y
「いらっしゃい、陽君と紗姫ちゃん。ささ、早く上がって?」

何やら楽しそうな琉奈の態度に首を傾げながら、月華の家、『金鳳流』の居住部分へ。
陽は何度となく上がっているため、正直琉奈や月華に先導されなくても迷う事なく居間に辿り着けるだろう。自分の家と造りが似ているからというのも関係しているのかもしれない。

「……」

しかし今はそんな流暢な事を言ってられない。常に神経を尖らせ、迫り来る危険を的確に対処しなければならないからだ。

「陽ちゃんは何でそんなにピリピリしてるの……?」

「いや、だって……この家にすんなり上がれるなんておかしいだろ。どこからあの人が来るか分からないからこうやって周囲を警戒してるんだ」

その集中力はまるで戦闘時のように鋭く、気配もどことなく違う。

「お母さん、うちってそんなに危険なの?」

「陽君にとってはね。その理由が分かるのはいつになるかしら」

「あの人は……自分から言って上げないと気付かない人ですよ」

やはり陽の聞こえないところで女性陣は話をしている。
陽としても下手に踏み込んで殴られたり影で首を絞められたりしたくないので、黙って聞き流しているのだが。

「今日はね、陽君のお陰で鍋が食べられるから嬉しくて色々準備しちゃった」

外見相応に可愛らしく振る舞う琉奈だったが、テーブルに置かれた食材には全く可愛げが無い。
特にその量だ。肉や野菜、魚介類と所狭しと置かれた食材。まるで大人数で囲むような量。これを食べきるというのはさすがに難しいのではないか。

「来たか!」

鍋の向こう、腕を組んで座っていたのは十六夜。何故偉そうなのかは分からない。

「今日は貴様に鍋の何たるかを叩き込むため、わざわざこの食材を買ってきたのだ!ありがたく思え!」

「意味が分からない……」

「十六夜さんはね、俗に言う鍋奉行ってやつでね?お相手してあげてっ」

琉奈が楽しそうにしていた原因はこれだった。十六夜が仕切るのを琉奈自身でも止められないため、陽に全て任せようという魂胆だったのだ。

「知っているか、鍋というのはだな−−」

「……やっちまったよ」

寒いイコール鍋、という考え方はもう止めよう、と頭を抱えながら誓った陽は仕方なく椅子に着く。
食材だけでも大変なのに、いつもと違うおかしな十六夜のテンションを受けながら食事……気が滅入る。
だが食材自体は美味いのだから、それだけでも良いという考えだ。

「おい貴様!そんな鍋の真ん中に豆腐を置くなどと−−琉奈、お前もか!」

「こういうのは楽しめりゃ良いんだよ……仕切る人間は必要ない!」

「貴様ぁ!道場に行くぞ、その曲がった性根を叩きのめしてやるからな!覚悟しろ!」

「上等だぜ。今日こそあんたを負かしてやるさ」

こうなる事は予想していた。最初から。
分かっていても、やるしかないのだ。それが陽の役目だから。

「頑張ってー」

「それじゃ、私たちはいただきましょうか」

「なんか悪い気もするけど……」

これも、予想の範囲内だ。


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