〜龍と刀〜
平和な時間T
*****
−−十一月も半ばに入ろうかとしている頃、陽のクラスはいつも通り賑やかだ。
特に、井上を中心として。
「早くしろよー」
「そうだぜ井上?どうせ負けるんだからさ、潔くやっちまいなよ!ユー!」
「うっさい!!お前ら黙れよ!」
「お前が一番うるさいんだけどな」
一つの机を囲み、男子が集まって何かをしている。その手元にあるのはトランプだった。
どうやらババ抜きをしていたらしく、最後の敗者決め戦が繰り広げられているのだ。一番盛り上がる場所のはずだが、井上が長く考えているらしく、飽きてきた。早く終わって欲しいというのが周囲の総意だ。
さすがは井上、空気を読む事が出来ないらしい。
「見えた!」
ようやく動き出し、素早い動作で陽の手元のトランプを引き抜く−−同時に、陽の口元が不敵に歪んだのを誰が見ていただろうか。
「こ、こいつは−−」
「ふっ」
井上が全力で引き抜いたのは少しおどけた表情をしたピエロ。つまり、ジョーカー。
「おぉやっと終わった……さ、敗者!次の準備よろしくな!」
「誰が歯を診る医者かっ、まだ龍神のが残ってるだろ!?」
「いや負けた人間の意味で使ったのに……それすらも理解出来ないなんて。やっぱりバカだよ、お前は……」
ギャーギャーと騒ぎ立てる井上の手元からさり気なく一枚抜き取り、最後の二枚を捨てる。
こんな長閑過ぎる程の時間を過ごしていても、どこかで何かが起こっていると思うと素直に楽しめない。あの日以降、『永遠の闇』の動向から目が離せなくなるくらいに活発に動いている。日本各地−−いや、世界各地で。
「龍神?もう配ってあるよ?」
「あ、ああ悪い。どうやって井上をいたぶろうか考えてたところだ」
「え?龍神もなの?」
俺も俺もと中島に釣られて広がっていく井上を敵にする輪。
「なあそろそろババ抜き以外でやろうぜー?どうせ井上が負けるんだし」
「そうだね。ん〜七並べとかは?」
「え〜ルール微妙なんだけど……あれだっけ?順番に並べてくやつ」
「違うな、ここは一番優劣を付けられる大富豪だろ」
陽は自分の手札を見てから提案。しかし、今の一言は中島を含めた周りは賛成した。当然井上に拒否権は存在しないのだが。
「じゃあ、それで良いみたいだね。始めよっか?」
「おうよ!絶対に井上は一番で上がらせねえ!」
「はっはっは!それはどうかな?この大富豪の天才と呼ばれた俺に適うとでも思っているのかい!」
「その自信、ぶっ壊してやるよ」
再び白熱するバトルが開始される中、やはり気になるのはこの街以外の事。
思えば自分を中心にして広がっているのだから。
負けない、屈しないと決めた陽だが、迷惑は掛けたくないのだ。だから、自分が出来る事なら何でもする。
「おーい龍神ー?今日はやけにボーっとしてるな?」
「スマン。誰だよ、階段してんの……出せる訳ねえだろ」
だが今は、せめてこのささやかな平和な時間を楽しんでいよう。
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