〜龍と刀〜
記憶(オモイデ)の場所でV
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突き出された白銀を籠手に当てる事で逸らす。擦れて赤い火花を散らすのには目も暮れず、防いだ方とは反対の手を伸ばした。
「……っ!」
陽の視界に飛び込んで来るのはサーベル。その切っ先に集まる漆黒。
「西洋魔術には、闇を使った魔術があるのをご存知ですか?」
一言、それが発せられた時にはもう、闇の奔流が陽を飲み干そうとしていた。
「こんなの!」
アスラの腕とぶつかり合っていた白銀を引き戻し、体勢を低くする。最低限、射程圏内からは外れなくてはならないのだ。
発射された闇の奔流をかろうじて避けると、右腕に術式を展開させる。
陽が元居た場所には直径数十センチのクレーターが出来、生えていたであろう草花はおろか、地面も深く抉れていた。今のを喰らっていたとしたら、間違いなく深手を負っていただろう。
「これは……覚醒の術式、ですか」
「ああそうだ。お前と張り合うのに出し惜しみしてる場合じゃないんでね」
すれ違いざまに交わされた会話。お互いに腹を探りあっているのか、それ以上の会話は無かった。
「右腕、龍化完了だな。調子はどうだ?」
「ん、悪くない。むしろ今までで一番良い具合かもしれねえな」
龍化した手をグーパーさせ、感触を確かめる。どうやら不備は無いようだ。
「それが本気ですか?あなたは全身の龍化が可能なはずです」
挑発するような口調。
だが言われている事は確かだ。陽は一度だけだが、全身に龍化を掛ける事に成功している。しかし、あの戦闘以来それを使う事無く、片手のみの龍化だけを行っていた。
「悪いが、今の俺じゃこれが限界なんだよ。特に長時間保たせるには右腕だけが効率良いし。両腕は時間も掛かるからな」
「うむ。こちらは手を見せたのだ。そろそろそっちの手中も見せてもらいたいものだが」
陽の言う事は本当で、全身の龍化は体力や魔力の消費が激しく、多用出来る物ではない。
しかし利き腕となっている右腕は、魔術を通す回路でもあるし、白銀がそこそこ補ってくれるのである程度の時間龍化したままでいられるのだ。
似たような理由で左腕も出来そうだが、安易に使って失敗してしまったら元も子もない。
「私の奥の手……。そんな物、存在しませんよ」
「なら常に本気で当たってるって言うのか?」
「それは違います」
水平に翼を広げ、胸の前でサーベルを構える。足は肩幅程度に広げられ、衝撃に耐えられるような体勢だ。
「最初に言ったはずですが、私にあるのは盟主との誓いを達成する事でそれを成し遂げるためなら−−」
地面、背後、そしてサーベル。それぞれに奇怪な紋様を刻んだ魔法陣が展開、回転を始める。
「白銀……受けきれると思うか?」
「逃げ場は無し。やるしかないだろう」
ポケットに手を突っ込み、ごそごそと何かを探す仕草。
「−−仲間を傷付ける事すらいとわない、と」
収束、放出させたのは先程の奔流よりも太い闇の塊だ。当たったらひとたまりも無く、消し飛ぶだろう。
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