〜龍と刀〜
記憶(オモイデ)の場所でT
門を潜る時に感じた体への違和感、独特の浮遊感とでも言うのだろうか。
それを抜け先、開けた場所に出る。
「ここは……?」
吹き抜ける風は爽やかに陽の髪や肌を撫で、柔らかな日差しが照らすのは小高い丘。広い草原から見下ろせるのは民家、だろう。
「何なんだよ、一体?」
「日本の風景では無いみたいだがな……」
それは予想が付いた。だとすると、かなりの距離を移動した事になるんじゃないだろうか。
「ここは私の記憶によって織り成されている空間です。私の……私たちの原点でもある」
草を踏んで歩いて来たのはアスラだ。やはりここでも鎧兜は外さない。
この場所で起きた事を噛み締めるかのように、一歩一歩進んでいく。
「最低限の情報は与えておくべきでしょう……ここは私たちの生まれ育った地であり、私の盟約が確立した地」
「盟約……?誰かと約束でもしたのか?」
「そんな軽い物ではありませんが……彼との大事な盟約を。この地で、この心と剣に」
腰元にあるサーベルの柄に手を滑らせる。そして少ない動作によってその鈍色に輝く刃が引き抜かれた。
「その約束……盟約ってのが何なのか聞いても良いか?」
「それはお答え出来ませんね。答えるのは、私を倒してしまった場合のみ」
「ま、そんな気はしてたんだけどさ」
陽は白銀の切っ先をアスラの兜に秘められているだろう瞳に向ける。
当然、アスラは動じもしない。ただ前を見詰め、サーベルに神経を集中させていた。
「だけどその前にもう一個だけ質問がある」
「どうぞ。私が答えるかは別ですが」
「お前、何でさっきの戦闘で剣を抜かなかったんだよ。手加減してたとでも言うのか?」
今、目の前に居るアスラはしっかりと剣を抜いている。だが、ここに来る前やその前、文化祭の時もアスラが自身のサーベルを抜く事は無かった。
「そんな問題ですか。それならお答えしますよ。私の剣は本当に必要となった時に、もしくは倒すべき相手にのみ見せるのです。つまり、先程の戦闘では多くの仲間やあなた方が居た……だからです」
「なるほどな……手加減してたって訳じゃなくて、それが流儀だからそれに従ってた訳か」
思えば文化祭の時にサーベルを抜いたあの場で、まともに意識を保っていたのは陽のみだった。そこに月詠が介入、アスラはサーベルをしまって逃走したというのが真相。
「あなたにもあるでしょう?自分を律するための流儀が」
「ああ、あるぜ。正々堂々真っ向勝負だ!それとな−−」
白銀を強く握り、アスラを睨む。
「−−仲間を傷付けた奴は許さない」
「それは……シルフィードとウンディーネの事ですか?」
「それも含めてだ。俺の知らない人でも協会に所属して頑張ってるんなら、俺の仲間だ」
「純粋ですねあなたは。だが、それはそれであなたらしい……それがあなたにはお似合いでしょう」
一陣の風が二人の間に流れ、陽の体を通り過ぎ、アスラのマントと翼を撫でていく。
「質問は終わりましたね?では始めると致しましょう」
「望むところだ」
次の瞬間、二人の刃が交差して火花を散らした。
[*前へ][次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!