〜龍と刀〜
後夜祭!]
スタコンも、途中アクシデントもあったが、負傷者もなく無事に終わりを告げた。
優勝が誰なのかなどは全く聞いておらず−−そもそも興味がない−−井上と中島は別行動となり、今は月華と紗姫に挟まれるようにして、残されたビッグイベントを待つだけとなっている。
「この後って、結局何をやるのか知ってる?」
「んとね、あそこに火を点けてそれにあわせて花火を上げるんだよ!楽しみだなぁ」
「へぇ……それは期待出来そうね」
楽しそうな女子二人の会話に水を差すように、
「だけどあれって文化祭で出た廃棄物だろ?ゴミ処理じゃねえか」
ボソッと呟く陽。会話をするのは良いのだが、こうも挟まれた状態でされると疲れてもくるのだ。それを分かって欲しくて何度もマイナス発言をしているのだが、返ってくるのはいつも強気な反対意見。
「まったく……龍神君はとことん夢が無いわね?もっとこう、ちゃんと楽しめば良いと思うの」
「そうそう。ちなみに陽ちゃん、夢とかある?」
「夢……?あぁ。あるぞ」
「どんなの?」
普通ならためらったりするのだろうが、陽には関係が無いみたいだ。数秒だけ考え、言葉にする。
「今すぐ帰ってゆっくり寝たい」
「最低ね」
「うん。そういう事は思ってても口にしちゃいけないんだよ?」
「お前らが言えって言ったからだろっ」
これは何を言っても無意味だと理解した陽は喋らない事を選択。そして、今の会話に含まれた、ある事を思い出してしまう。
「寝ようにも窓が無いんだったな……」
「寒空の下で寝て風邪を引くのね?それは大変」
「大変だと思ってるなら棒読みはやめないか?」
「じゃあどうすれば良いのよ」
面倒臭そうに金髪を撫でつける紗姫に、どう答えようかと考えてみたが、すぐに根本的に解決した。
「別に心配はいらなかったな。部屋ならいくらでも余ってるし、客用の布団があったはずだ」
「ほら心配なんて必要ないじゃない」
「でも陽ちゃん、他の部屋って掃除してないからホコリだらけかも……布団も置きっぱなしだから身体に悪いよ」
心配してくれたのは、月華だけみたいだ。だがしかし、そうなってしまうと選択肢は一つしか無くなってしまう。
「居間しかないか……固さだけ我慢すれば寝れなくもないしな」
実は余程の状態じゃない限り、どこでも寝れそうな陽だったが、それ以上を口にすると更にややこしくなりそうだったので、口を引き結ぶ。
「そろそろ始まるみたいね」
「あ、本当だ!」
グラウンドの真ん中、積み上げられた木材に赤々と燃える炎が灯される。それと同時に、繋がれた導火線に火が走り、更にその先にある花火本体へと向かっていく。
その様子を誰しもが注目していた。教室に居る者、グラウンドに居る者、近隣の住民も、期待に目を輝かせている。
光の軌跡を後ろに引きながら、心地良く感じられる轟音とともに、夜空には数輪の花が咲く。色とりどり、様々な形の。
そんな騒がしい空間の中で、隣から声がした。
「答えは……いつでも構わないから。ちゃんと、出してくれれば」
「あぁ……いつか。絶対に決める」
「期待、してるわ」
陽にだけ聞こえるように、呟かれた言葉は花火の音によって余韻すら残さない。
花火が打ち続けられながら、後夜祭はゆっくりて幕を降ろしていくのだった。
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