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〜龍と刀〜
後夜祭![
次々に出場者がステージに呼ばれては戻って来る。だが、ほとんどの生徒が何故か笑顔だ。お遊び感覚になってしまっているのだろうか。

「い、いよいよ次だな……龍神」

「そうみたいだな。雰囲気的に真面目にやらなくても良いかも」

ウォーミングアップをするように竹刀の素振りを始めた。適当にやるという事はつまり、井上の怪我に直結しているのだが。

「それは困る!」

「……?どうかしたのか?」

「イヤ、気のせいかな」

「変な奴だな……いつもの事だけど」

ステージの奥から歓声と拍手が響いてきた。前の生徒が終了したのだろう。

「うぅ緊張してきたぜ……!」

「お前は別に何もしないだろう?俺の方が緊張の度合いは上のはずだ」

「俺の場合は、また乱入に間違われないかという心配があるんだよっ!もうあんなのはゴメンだからな!龍神、何かあったらちゃんと助けろよ!?」

素振りで温まった体。
深呼吸で落ち着けた心。
準備は万端だ。いつでもやれる。

「えーそれでは続いて……あ、乱入騒ぎがあった、一年生の龍神 陽君です!どうぞ!」

乱入騒ぎという単語にビクリと肩を震わせた井上の背中を、竹刀でつついて無理矢理進ませた。
しかし、井上を先に進ませたのは明らかに失敗だった。

「……また、ですか?」

司会の女子生徒の声が溜め息混じりに聞こえ、すぐにブーイングへと変化。
これは早く出て行った方が良さそうだ。

「助け−−」

「あーすみません。コレは俺の一発芸に使う道具ですから、撤去されると困ります」

登場と同時、井上に投げられたであろう空き缶を一閃して叩き落とす。別に投げ返して騒動を起こすつもりはない。ただほんの少し、観客席に視線を投げてみる。

「え、えっと……道具なんですか?」

「はい。道具です」

「なら……良い、ですね。続けましょう!龍神君のアピールは、居合い抜きと申請が来てますね」

井上を適当な位置に配置して、自身は竹刀を腰溜めに構えた。
雰囲気を察してか、観客席からざわめきが消え、期待の眼差しが至る所から向けられる。悪い気分では無いが、落ち着かないのも事実。
正直に言うと、剣術は見せ物ではないのであまりやりたくはない。それに自分の剣術はまだ半人前だからだ。

「悪いな井上、ジャンプしてみてくれないか?十回ぐらい」

「は?何で?」

「今からやる事がヤラセじゃないという事の証明だ。……そんな事やるくらいなら最初から出ないけど」

「分かった」

ボディチェックの要領で井上を飛び跳ねさせる。チャラチャラと音が鳴るくらいで、何の問題も無いのは提示出来たはずだ。

「ご覧の通り、タネも仕掛けも……脳みそもありません」

密かに借りていたマイクで伝えると、観客席からはどっと笑いが起きる。その他には、やっぱり、という納得の声。

「それでは、始めましょうか。……最後にもう一度言っとくぞ?動くなよ」

小声で注意をし、再び居合いの構えを取る陽。目は真剣そのものだ。

「ふ……!」

僅かに吐息を漏らした次の瞬間には、静寂が広がった。

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あきゅろす。
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