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〜龍と刀〜
夢を追う
十六夜の木刀は、普通以上の切れ味を発揮する。魔力でコーティングしているからとかそんな理由ではなく、もっと根幹の部分。
十六夜の持論であるが、戦う者に必要なのは、戦う理由だ。どんな理由でも構わないが、邪悪な意志を持つ者だけは、その力を悪用する。それを防ぐための剣なのだ。

「つまり、少なからずこの化け物にも……」

そう。先程言っていた、人間に、というのが夢なのではないか。信念のある敵ほど、強くなる。

「貴様!言葉は理解出来るか」

わざと大振りに、相手との距離を取るための一撃。当然トカゲが避けるのを見越してだ。

「……分か、るぞ?」

「そうか。なら一つ問おう……貴様、人間になってどうするつもりだ?」

少しの間があり、トカゲはゆっくりと考える動作をする。正確には、人間っぽく腕を組んで。
普段の十六夜なら相手と言葉を交わすなどという行為は絶対にしない。だが、今回は何かが引っ掛かっているような気がしてならなかったのだ。これはきっと重要な事だ、と直感が告げている。

「う、ん。人間は……便利、だからなぁ。種族として、生きていくのには、今は、辛いんだ」

体を左右に揺らしながら言葉を確かめるように続けるトカゲ。どことなく悲しげに見える。

「だから、オレとか、騎士長様に……訓練をさせて、もらってる」

「騎士長?どっかで聞いたな……」

ぎこちなく発せられた言葉。
その中の騎士長様、という単語に反応し、記憶を辿る。

「騎士長様は、凄いんだぞ?年上の、オレが見ても、違う種族のオレが見ても、凛々しい。……ん、夜の色をした装飾に、翼。西側の鳥は、凛々しいな」

「夜、翼、西側の鳥。……そいつはアスラと言う奴だな。月華を巻き込んだ、張本人……!」

十六夜の周囲に火花が散り、大気を焦がす。木刀にも再び炎が燃え上がる。

「お、おぉ?熱いぞ……前よりも……」

魔力に当てられたのか、トカゲの口調がどんどん普通の物に変わっていく。それでもお構いなしに十六夜は黙って怒りを燃やす。

「そうだ。人間の肉は……上手いんだった、か?それも、人間になりたい理由。オレの、夢、だ!」

瞳が笑みに細められたと思えば、

「ギ……!?ギャァアァァ!腕、が……腕ぇ!」

即座に悲鳴へと。トカゲの両肩を見ると、そこにあったはずの人間の腕は、無惨にも地に落ちていた。肩口からは血液は流れておらず、変わりにジュージューと不気味な音を立てて燃えている。膝を崩し、痛みに顔を歪めるトカゲ。その目前に、十六夜。

「貴様みたいなクズが、人間の皮を被っているのは許されん。次は足を頂くぞ……!」

「うぅぐぁ!」

すくい上げるように木刀を振り、トカゲを仰向けに。腹を踏みつけ、木刀を首に当てる。

「だがその前に、貴様に問う。『永遠の闇』は、何をしようとしている?わざわざ人間になるのが目的では無いだろう」

冷酷に。真実を問い質すのには手っ取り早く確実な方法だろう。やらなければならない事を履き違えるほど、十六夜は馬鹿ではない。

「そ、それは−−」

空を切る音。
それを察知してトカゲから離れると、その額には漆黒の羽根が突き刺さっており、そこから砂となっていく。

「逃げられたか……ああ俺様だ。全て片付いた、結界を解くぞ」

携帯電話を取り出し、そう告げながら日の落ちた空を見上げる十六夜だった。


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あきゅろす。
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