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〜龍と刀〜
『闇』
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ここに在る闇というのはとても便利で、魔力を流す事により為すがまま、思うがままに形を変える。

「全力では無かったとは言え、手を抜いてしまいましたか……」

闇の中に帰ったアスラは、鎧姿のまま一番巨大な空間へと足を運ぼうとしていた。
その途中にはただ戦力増強のためだけに集められた、知識すら保たぬ化け物たちがひしめいている。今は何とか抑えつけているが、いつ暴走するのか分からない、いわゆる生きた爆弾を飼っているようなものだ。
そこまでして、成し遂げなければならない物がここには、有る。

「只今、戻りました……」

「そう。その様子だと、あまり芳しくないようね?ケホッケホッ……」

自由に形を変えられる闇、そこに姿を隠すように座っているのは、アスラの上役だろうか。声から察するに、女であるという情報は得られる。それ以外は、はみ出した脚。漆黒の空間に異様な存在感を醸し出す白い脚だ。

「まだ、お身体は万全にはなりませんか」

「そんな事は気にしなくても良いわ。それで、首尾はどうなのアスラ?」

「……」

ガシャガシャと音を立ててひざまずき、頭を垂れる。

「まず、今回は“風の盾”シルフィード、“水の槍”ウンディーネが第一目的に協力をしてくれました」

協力をしてくれたのは事実。そして、そう仕向けたのもアスラだ。

「しかし、彼女らは盟主の邪魔をしようとしたため、斬り捨てました。それが最良の選択だったと私は思います」

「二人が、ね……また意志を持った者が失われたわ」

「申し訳、ありません」

下げていた頭を更に深々と下げる。本来であれば、斬り捨てるべきでは無かったのかもしれない。
あの場で連れ去り、記憶を弄り、再び仕向けるという手もあった。だがそうしなかったのは、私情を挟んでしまったからだ。

「ねえ……アスラ」

「何でしょう」

「アスラは、仲間を失ったという事に心を痛めたりしないの?少なくとも、彼女たちは−−」

何故か切羽詰まった声で話す女性。そんなに二人が消えてしまった事が悲しいのか。
しかし、アスラは気遣った声色を使う訳でもなく、あくまで平淡に、冷静に告げた。

「私が守らなければならないのは盟主殿との誓いのみ。私はそのために、剣となり盾となる」

漆黒の兜の中から光るのは、鋭い眼光だ。闇に灯る、揺るぎない光。

「その誓いを妨げようというならば、どんな事情があろうと即刻排除……相手がどれほど乞い願おうと」

「そう、だったわね……」

「それに、悲しむなどという感情は捨てました」

僅かに頭を上げ、次の言葉を待つ。

「分かった……では、今は休みなさい。次に出向く時までね」

「は」

「それから、その間の指揮権は譲ってもらう。こちらも体調を万全にしなければならないからな」

「了解」

先程とは打って変わったしっかりとした声だ。そこには威厳が含まれているのが近くに居て実感出来る。

「そこの一画に居る“物”どもは襲撃に出てもらう故、最低限の知識を与えておいてくれ」

見なくても感じで分かるのだ。闇が動いているのが。

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