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〜龍と刀〜
救世主?
響くのは、テレビでやっているバラエティ番組の笑い声。それだけが虚しく二人の間をすり抜けていく。

「風、強いな」

「え?あぁ、そうみたいね」

これでも陽は頑張っているのだ。こうしてたまに話題を振り、どうにか会話を続かせようと努力している。
紗姫もそれは分かっているはずなのだが、なかなか上手くいかない。
同じ屋根の下で暮らしているというのが何よりも問題だった。こうなる事もある程度は予想が付いていたのだ。昨日決意したのに、紗姫はまったく守れていなかった。
そんな空気を断ち切るように、階段を駆け下りる足音が二つ。月華と十六夜だろう。

「決めた、のか」

「ああ。さすがは俺様の娘だ。肝が座っているというか……だが、前線に出させるつもりは無いし、教える魔術もかなり少ない」

「そうか。なら安心だ」

「当然だろう?むざむざ危険に放り込むほど俺様は鬼じゃない」

先に入って来た十六夜は降参だ、と言わんばかりに首を振る。

「あのね、陽ちゃん……」

「なんだ?……って何で隠れてんだよ?」

リビングの扉向こう、体を隠すようにしてこちらを伺っている月華。その目は何かを言いたそうだった。

「どうせ月華の事だ。お礼だろ?それか感謝の言葉だな」

「貴様!月華に何て事を言いやがる!どうせ、とはどういう意味だ!」

「いたっ!なあ、何も殴る事は無いんじゃねえか?」

急に元気を取り戻した十六夜が、木刀で陽の頭を殴る。
一人、状況を理解出来ていないみたいだ。

「ねえ、何が起こってるの?全然話が見えて来ないんだけど……?」

「ん?貴様、話していなかったのか」

「……忘れてた」

適当に言い繕い、紗姫が戻って来るまでの事を一通り、まとめて話す事に。

「つまり、月華ちゃんも魔術という存在を知ってしまったという訳ね?」

「そうなるな」

「これからよろしくね、紗姫ちゃん」

そう言って笑顔を向けられた紗姫。表面上はにこやかに接したが、内心は不思議な気持ちが支配していた。
多分、嫉妬だ。自分だけが同じ立場に居て、境遇も似ていて、だからこそ好意を持っている事を知って欲しかった。
紗姫は月華も陽に好意を寄せている事を薄々気付いている。本人はあまりにも鈍感でそれすらも言わないと気付かないだろうが。
月華が同じ立場に立ってしまうという事は、少なからず陽の過去も知る事になるだろう。今までは自分だけが知っていた事実を。共有した過去を。それが嫌だった。
でもそれはワガママだ。だから、どうせなら今まで通り友達として、恋敵として接して行こう。そのためには、自分から退いていてはダメなのだ。

「お互い大変でしょうけど、頑張ろうね。私も負けないから」

「……?うん、ちゃんとみんなを守れるように頑張るよ!」

ガッチリと握手をした二人。その意図は違えど、通ずるところは同じだ。

「じゃあ、とりあえず」

「飯だ」

「違うよ!後夜祭、みんなで行こう!」

「そんなのもあったわね。すっかり忘れてたわ……さ、行くわよ龍神君?」

二人引っ張られる陽。
どうやらこれで一つ、問題が解決しそうだ。

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