〜龍と刀〜
修理を……
行き場を無くした陽は、一階の居間にて休憩を取っていた。束の間の休息。
「なんだろう、無駄に体力使ったような……」
虚脱感。まさしくこの言葉が相応しいだろう、というそんな状態だ。
「あー窓とかの修理呼ばなきゃ……時期も時期だし、割れたままだと周囲の目も気になるなぁ」
椅子にダラリと腰掛けていたのを止め、うなだれる。頭に浮かぶのは、窓ガラスの修理費と床の修理費、そして世間体だ。
特に後者、世間体は気になって仕方がない。と言うのも、高校生が一人で住んでいるだけでも有名なのに、女の子が出入りをしているというのもある。
ただでさえ目立つ古風な建物。あまり良くない思いをしている近隣住民も少なくないらしいのだ。
「いや、別に俺が全額持つ必要はない、よな?とりあえず業者さん呼んで、見積もりだけでもしてもらうとするか……」
溜め息混じりに立ち上がり、据え置きの電話へと向かう。そして、電話番号が沢山載っている、分厚い本を探し始めた。
「あれ……?確かここら辺にしまっておいたはず、なんだけどな……おっかしいな」
頭に手を当て、周りを見渡すが、それらしき物体を見当たらない。なので、近くの引き出しも確認してみるが、当然無い。最近掃除してもらったとするなら、在処を知っているのは月華だけ。しかし、この程度の事で雰囲気を壊すほど陽はバカではないのだ。
「かと言って部屋を荒らすと怒られるし……俺もゴチャゴチャしてるのは嫌いだしな」
携帯電話も自室に置いて来た。調べる事も出来やしない。
「ん、そういえば」
分厚い本の在処を思い出したような気がして、ポンと手を叩く。未だに開きっぱなしになっていたシャツのボタンを幾つか閉めてから、玄関へ。
「下駄箱に予備を入れといた、と聞いたような気がしないでもないな」
何故下駄箱なのかは知らないのだが、それっぽい事を月華が言っていたかもしれない。
そんな曖昧な記憶を頼りに下駄箱を開く。すると、やはり靴独特の匂いが出迎えてくれた。中に入っているのは陽のスニーカー数足、そして達彦が好んで履いていた革靴。それだけだ。
「……」
感慨に沈んだのは一瞬。すぐに切り替えてお目当ての本の捜索を開始。
「お、本当にあった」
十秒も掛からずに発見。中にある物が少ないので当然ではあるのだが。
まずはその場で業者を探し、見付けてから電話しようという魂胆である。
「それっぽい店の名前を探して、と」
一枚一枚捲っていくつもりなのだろうかとも思わせるような素振りでページを進めていく。
「窓の事なら何でもお任せ……家庭のリフォームも承って……面倒だからここで良いかな?こんな大々的にやってんだから偽物じゃあないだろうし」
適当な理由である。しかし、陽としては早めに見付けて早めに直してもらいたい気持ちの方が大きいのだ。
時は一刻を争う、とまでは言わないがそこそこ迅速に対応したい。
そのページの端を折り、電話をしようと足を向けた時だ。
玄関の戸がガタッと揺れる。
「あ、はいはい。今開けますよー」
来客かと思い、戸を開けるとそこに立っていたのは、何と紗姫だった。
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