〜龍と刀〜
過去V 捜索
眩い光が身を包んだのも一瞬。
目を開くとそこには深い森林が広がっていた。
「やっと来たか」
辺りを見回す陽の隣、木刀を肩に乗せた十六夜が立っている。
山でタバコは吸わないらしい。
「先に行くと達彦に伝えとけよガキ」
「……ガキじゃない。陽っていう名前あるから」
「生意気なガキだな。良いか、俺様は貴様の数万倍強いんだぞ?楯突く事は許されない。分かったな」
十六夜はそれだけ言い残し、草木の生い茂った険しい山道を軽々と走り抜けていく。
「ん?十六夜は……どうせ先に行ったんだろうね。そりゃあ娘が捕まってるんだから仕方ないか」
妙に落ち着きを払った態度で魔法陣から出現したのは達彦だ。今度は自身の手のひらに魔力を集中、空間へと解き放つ。
「こうやって結界を張っておかないと、十六夜みたいな好戦的な人は周りにも被害を及ぼすからね。まずは結界を張る。これが実戦では必要不可欠」
あくまでも実地訓練だという事にしておきたいのか、丁寧に解説を加えていく。
当初の予定では、周囲の人間に慣れさせるためだったのだが、これはこれで丁度良い。
「あとで結界の術式の組み方も教えるから、しっかり覚える事。でも僕も魔術はからっきしだから、剣術重視だけどね」
竹刀袋から白銀を抜き去り、煌めく刀身を晒す。陽もこんな間近で白銀を見るのは初めてで、その姿に見とれてしまう。
「陽もその内持つ事になるよ。その頃にはきっと白銀にとっても相応しい剣士になってるさ。大丈夫、僕がサポートするから」
「頑張る」
「うん、その意気だ。さてそれじゃあ探す訳だけど……実際十六夜の後を追い掛けた方が確実性は高いんだよね」
手を顎に当て、考える。
十六夜を追うべきか、自分たちだけで捜索するべきか。前者は一番簡単で楽な方法だが十六夜の事だ、尋常じゃない速度で進んでいるに違いない。
後者は“神隠し”の犯人と遭遇した場合、真っ先に戦闘に巻き込まれるため陽への指示が行き渡らない可能性がある。
どちらにしてもデメリットが目立つ。
「探さないというのは気が引けるし……陽はどうしたい?」
「あの人、苦手。いつも怒ってるから」
「あー、確かにいつも怒ってるな十六夜は。果報は寝て待てって言うし、寝るのはダメだけど十六夜が戦闘を開始するまで待ってみよう」
そう言うと達彦はその場に座り込み、木に背中を預けた。それに倣い、陽もペタリと地面に腰を下ろす。
すると、思い出してしまった。
家族と過ごしたあの日々を。急に失ってしまったあの日々を。
「……こうして、自然を感じながら生活してたんだね。それは名残惜しい物もあるだろうけど、過去は過去なんだ」
空を見上げ、ポツリと呟く達彦。そんな事は、幼い陽でも理解している。
「だったらさ。変える事が出来る今を大事にすれば良い。簡単だろ?」
「……うん」
「上出来だ」
言いながらわしゃわしゃと小さな頭を撫で回すと、陽も嫌な顔はしなかった。
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